イタリアはかつてプログレ王国でした。少なくとも日本に紹介されるイタリアのバンドはことごとくプログレ・バンドでした。恐らく普通にポップスなどの方が人気だったのではないかと思いますが、そうした音楽は国境を超えないのでしょう。

 当時、プログレッシブ・ロックはロック界のリンガ・フランカでした。出身を問わずに勝負できるジャンルです。それは後にロックではヘビー・メタル、そしてパンク、さらにはクラブ・ミュージックへと世代交代がなされていきます。

 レ・オルメはそんな時代に日本に伝えられたイタリア産プログレッシブ・ロック・バンドの一つです。一緒にイタリアをツアーしたヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーターのピーター・ハミルが惚れ込んで世界進出を仲介したそうですから、EL&PとPFMの関係に似ています。

 元はサイケデリックなビート・ロックを演奏していたそうですが、キース・エマーソンのナイスの影響を受けて、トリオ編成となり、本格的なプログレ・バンドとして大成功を収めました。この作品は彼らの5作目、転向後3作目にあたる彼らの代表作です。

 編成はナイスと同じで、中心となるキーボードにトニー・パッリウカ、ドラムにミキ・デイ・ロッシ、ギターとベースとボーカルにアルドー・タッリャピエートラです。アルドーこそが1965年にレ・オルメを創始した人物です。

 ナイスは当初4人組で、ギタリストを解雇して3人組になった経緯があります。それなのにナイス形式をとることをもう一人のギタリストのアルドーが主導するというのも面白いものです。トニーのシンセ・プレイに惚れ込んだということなのでしょう。とりあえずは幸せなバンドです。

 この作品はレ・オルメ初のコンセプト・アルバムということで、フェローナとソローナという二つのお互いを回る惑星のことが歌われていきます。愛に輝く星フェローナと暗く萎んだ星ソローナが、いつしか運命を逆転していく、といったストーリーのようです。

 のようです、というのもイタリア語が全く分からないのでしょうがありません。実は、本作には英語版もあります。世界進出と相成った時に英語版も制作されており、日本でもそちらが発売されたんです。こちらはオリジナル伊語版で本邦初お目見えだそうです。

 レ・オルメのサウンドは、当然、ナイス、さらにはEL&Pと比較されます。しかし、キース・エマーソンの攻撃的なサウンドとはかなり印象が違います。そこはブリティッシュとイタリアンの相違です。よりマイルドで大陸を感じる大らかなサウンドが持ち味です。

 アルドーのボーカルは時おりイエスのジョン・アンダーソンを思わせますし、レ・オルメのサウンドはプログレッシブ・ロックの教科書のようなクラシカル風味のしゅっとしたロック・サウンドです。ジャケットのバルテュスかダリかという絵に騙されてはいけません。

 「キーボードを中心として構築される雄大なサウンドと詩情豊かな歌声が、イタリアン・ロックの魅力を十分に伝えてくれる」んです。スタイルをころころ変えながら長く活躍するレ・オルメのプログレ期は時代と資質がベスト・マッチだったのだと思います。

Felona E Sorona / Le Orme (1973 Philips)