2016年年末の紅白歌合戦ではこのラッドウィンプスが圧倒的に輝いていました。若い旬のアーティストの溌剌とした姿はとても気持ちがいいものです。日本のロック界も成熟してきたものだなと感慨にふけりました。

 しかし、ラッドウィンプスのデビュー・アルバムは2003年7月、13年以上前のことだと聞いて驚きました。彼らは以来順調な活動を続けていて、このアルバムが8枚目、4枚目からはすべてトップ10に入るヒットとなっています。

 そんなバンドなのに、私が彼らのことを知ったのは恥ずかしながら「君の名は」の大ヒットがあってからです。恐らく大多数の中年世代はエクザイルやAKBは知っていても、彼らについてはそんなもんでしょう。このことは考えてみれば痛快なことです。

 情報過多の世界において、こうした年寄りを疎外した若い世代だけの世界がある。まことにあるべき姿だと言えるでしょう。この歪んだ社会に絡めとられた大人に分かった顔をされるのは若い人にとってはさぞや不愉快なことでしょうから。

 それでも、ファンに不愉快な思いをさせることを承知で、ラッドウィンプスの8枚目「人間失格」を買ってみました。まずジャケットに引いてしまいます。これはかなり挑戦的なジャケット写真です。モトーラ世理奈さんの生写真はありのままの若さのすべてが詰まっています。

 彼らのサウンドは、ロックには違いないですけれども、Jポップに造詣の深いマーティー・フリードマンがよく言うところの、洋楽の影響を全く受けていないサウンドです。独自の進化を遂げた日本ならではのロックの中でも随分質が高いサウンドだと思います。

 ギター2本とベースにドラム、時々ピアノという構成なのにも関わらず、出てくる音はとても多彩です。ボーカルも極めてクリアで、2016年現在のテクノロジーの進化をひしひしと感じることができます。いい音です。

 何よりも彼らの最大の魅力は野田洋次郎の歌にあります。そして若者を引き付けてやまないのはその歌詞の世界です。さながらCD付属のブックレットは詩集のようで、バンドがいかに言葉を大切にしているか分かります。

 その歌詞を追っていると、その世界観にライトノベルを思い出しました。純文学や大衆文学に対するオルタナティブとしてのラノベは、玉石混交の度合いが高いことが玉に瑕ですけれども、良質な作品は本当に素晴らしい。もちろんその良質な方を思いました。

 世界や未来といった言葉が頻繁に使われるものの、全体に言葉の選び方がとても新鮮です。♪思い出の枝葉に たまに擦りむいたり 赤い血に励まされ 大地蹴る♪とか、どこを切り取っても様になる。夢中になる人も多いことでしょう。

 若い人の音楽事情はよく分からなくなってしまっていますけれども、こんな良質なバンドに人気が集まっていることを知って何だかほっとしました。ラッドウィンプスは今後ますます活躍していくことでしょう。とても爽やかな気分になりました。

Ningen Kaika / Radwimps (2016 EMI)