チャーリー・ヘイデンは2014年7月に満76歳で天寿を全うしました。彼は自身が1969年に創設したリベレーション・ミュージック・オーケストラによる環境をテーマとした作品を企画していましたが、生前には病気のせいでそれを完遂することがかないませんでした。

 そこで立ち上がったのがオーケストラ創設メンバーの一人カーラ・ブレイでした。彼女がチャーリーの遺志を継いで、見事に完成させたのが、このアルバムです。全部で5曲、うち2曲はチャーリーが演奏に係わった曲です。

 アルバムのコンセプトは2007年頃から固まり始めていたようですが、2011年8月のベルギーでのジャズ・フェスティヴァルでそれを試す機会を得ました。ここで演奏された2曲はいずれも環境問題に焦点をあてたものです。

 1曲はマイルス・デイヴィスの「カインド・オブ・ブルー」所収の「ブルー・イン・グリーン」。主にタイトルで選ばれました。そしてもう一曲は日本人には複雑な「ソング・フォー・ザ・ホエールズ」です。この2曲がたまたま録音されていたことからこのアルバムが出来たわけです。

 どちらも最後にヘイデンの語りが入るのですが、この頃にはすでに会話に障害をきたしていた様子で、とても痛々しいです。しかし、演奏には全く支障がありません。ヘイデンのベースはとても美しく響きます。

 「ソング・フォー・ザ・ホエールズ」では、イントロ部分にベースでクジラの鳴き声を作り出していて、これが切ない。クジラ問題は複雑ですけれども、ここはクジラのみならず生命全般を表していると考えて納得しましょう。

 この2曲に挟まれて、カーラ・ブレイが作った曲が総勢12人のオーケストラで3曲演奏されます。ベースのスティーヴ・スワローはカーラの現在のパートナーですが、ヘイデンの指名があったのだそうです。

 まずはアルバム・タイトルともなった「タイム/ライフ」、チャーリーの死を知ったカーラが彼の妻ルースに捧げた曲です。「月曜日にリハーサルをして、火曜日がチャーリーの告別式だった。そして水曜日、オーケストラはスタジオに入った。チャーリーの魂を皆が感じながら」。

 カーラは知らせを受けて「曲を書くことしか考えられませんでした」と言います。音楽家はどうしようもない悲しみに触れると曲をつくるものなのですね。残りの2曲は既発表曲ながら、ここでのテーマに相応しい曲が選ばれています。

 「沈黙の春」はレイチェル・カーソンの著作に言及するもの、「ユートヴィクリングサング」はノルウェーでのダム建設による環境破壊をテーマにした曲で、77人連続殺人事件で動揺していたオスロでチャーリーを含めて演奏されたことがある曲でした。

 そんな特別な事情を感じながらアルバムに耳を傾けると、とにかくその美しさに圧倒されます。オーケストラの鬼気迫る演奏にはヘイデンの魂が宿っています。とてもヨーロッパ的な理知的な響きと静かな爆発が同居しているサウンドは圧倒的な迫力です。

Time/Life / Charlie Haden Liberation Music Orchestra (2016 Impulse)