プログレ愛に満ち満ちた快作の登場です。「日本最高峰の弦楽四重奏団」モルゴーア・クァルテットがプログレに本気で取り組む作品も三作目となりました。今回は、直接交流もあったというキース・エマーソンへの追悼盤となっています。

 これまではプログレの名曲をとりまぜた仕様でしたが、今作は全てエマーソン、レイク&パーマーの楽曲です。前年3月に亡くなったキースへのトリビュートのはずが、12月にグレッグ・レイクまで亡くなってしまい、二人へのトリビュートとなってしまいました。

 モルゴーア・クァルテットは1992年にショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を演奏するために結成された四重奏団です。その後、ベートーヴェンやバルトーク、ボロディンなどへと演奏の幅を広げ、さらにロックの世界にまで越境してきました。

 第一バイオリンの荒井英治編曲によるプログレ名曲集はロック界の住人からも注目を集めており、キース・エマーソンもその一人でした。荒井とキースの対面は2013年のことだったそうです。そして2016年4月には共演コンサートまで予定されていました。

 キースの来日公演は本人の逝去によって叶わぬ夢に終わってしまったわけですが、その時に演奏することが予定されていた「アフター・オール・オブ・ディス」はここに陽の目をみました。「彼の葬儀で流すためにその曲を録音したんです」。

 「その録音現場で、1年後にキースのトリビュート・アルバムを作ろうと決めたんです」と荒井は語っています。そのアルバムがこれです。ジャケットとタイトルはもちろんEL&Pの代表作の一つ「トリロジー」への敬愛をストレートに表したものです。

 「アフター・オール・オブ・ディス」はキースの生前最後のアルバムからですが、それ以外の楽曲はすべてEL&Pの初期作品から選ばれています。中では、やはり22分に及ぶ「タルカス」と「恐怖の頭脳改革」からの「悪の教典#9」の大作が光ります。

 「タルカス」は吉松隆バージョンがあるわけで、それと同じオブジェがブックレットに顔を出しています。こちらの弦楽四重奏バージョンもオーケストラとは違うものの、それはそれで味があってなかなかのものです。

 また、小品も素晴らしい。「スティル・ユー・ターン・ミー・オン」はオリジナルよりもゆったりとした演奏で、さらにサティのジムノペディアを引用して、追悼盤らしさをかもし出しています。「シェリフ」は「田舎のバス」のようでほっこりとさせてくれます。

 しかし何と言っても「悪の教典#9」です。既出の第一印象パート1に続けて、「石をとれ」をアレンジしてピアノ曲である第二印象の代わりとし、第三印象につなげています。第三印象では最後の左右チャンネルを駆け巡る音まで再現されていて感動します。

 オリジナル楽曲を比較的忠実に弦楽四重奏にて再現した演奏には愛を感じます。畑は違うとは言え、こういう形でリスペクトを表現できるのは音楽ができる人ならではだなとうらやましくなってしまいます。何とも暖かい気持ちになる見事な作品です。

Tributelogy / Morgaua Quartet (2017 Denon)