私立恵比寿中学のメジャー・デビュー作品は「中人」と題されました。中人はどうやらチューニングのことのようです。アルバム中のインタールードにチューニングに絡んだ言葉が出てきます。のちに踏襲される路線のデビューです。

 この頃のエビ中は9人組です。ここから瑞季、杏野なつ、鈴木裕乃の三人が転校して、中山莉子と小林歌穂が入学すると2枚目、3枚目の8人組となります。なお、2009年の結成から、このアルバム発表までに5人がエビ中を通っていきました。

 エビ中は結成してから、ここに至るまでに4年をかけています。中学校ならば卒業してしまう年月です。しかし、エビ中にいる限り、中学校を卒業することはありません。中学75年生まで頑張るつもりのようです。

 アルバム中の「高校廃止法案」はちょっと納得してしまいました。確かに大きさで小中大となっているのに、いきなり高さが出てくるのは変です。義務教育年限の問題がなければ中学6年制の方が理にかなっています。

 さて、彼らは当初からサブカル好きの間で評判となり、サブカルチャー・アイドル、サブドルと名乗り、「今会えるサブドル」を名乗っていました。ももクロの妹分にして、チームしゃちほこやたこやきレインボーとも姉妹グループですから、その路線も一貫しています。

 このアルバムの楽曲群の中ではサブカル好みにとって、YMOの「体操」のカバーが注目されます。YMOもサブカルと親和性が高かったですし、この曲はその中でも変な曲度が高い。かわいい声で歌われるとゾクゾクします。

 ただし、全般にサブカル度が高いかと言えば、途中に挟まれるインタールード小ネタ集を除けば、そうでもなく、楽曲群は比較的おとなしいオーソドックスなアイドル歌謡が中心です。「禁断のカルマ」のようなゴシック・ロマン楽曲もありますが、基本はかわいい。

 メジャー・デビュー・シングル「仮契約のシンデレラ」に、「梅」、「あるあるフラダンス」など歌詞は掛け値なく面白く、そこがサブカル臭を放つのでしょう。しかし、クインシー・ジョーンズ風の「中人ダンス・ミュージック」などはあるものの、サウンドはやっぱりキュートでかわいい。

 ヒャダインやたむらぱん、石井竜也にレキシなど、作家陣も充実しています。みんなの歌でもなく、子供向けでもなく、中学生の学芸会向けに楽曲を作るというのは大変なことでしょう。ユニゾン・コーラス一つとっても変な破壊力があるわけですし。

 しかし、ここから3年半後にあんな悲劇が待っていようとは。こんなことがあっていいはずがない。ヒャダインさんの言葉に100%賛同します。こんなことがあっていいはずがない。本当にこんなことがあっていいはずありません。松野さんのご冥福をお祈りします。

 そのことを思うと、「手をつなごう」は万感迫ります。♪きみのだいじな友達、いまはもうここにいない♪、♪もっともっと手をつなごう、ずっとずっと手をつなごう♪。そして、松野莉奈さんの歌う一節、♪生きていることのよろこび、今忘れちゃいけない♪。肝に銘じましょう。

Chuning / Shiritu Ebisu Chugaku (2013 DefStar)