前作に引き続き、今作もジャケットがビーフハート画伯による見事な絵です。こんな大胆な画面分割は、相当な腕とセンスがないととんでもない結果に終わると思うのですけれども、さすがは画伯です。上塗りされた黒色が狂気を孕んでいます。凄い。

 「『永遠のアヴァンギャルド』としてF・ザッパとともに斯界に君臨する快傑キャプテン・ビーフハート、10年ぶりの日本登場成る」と鳴り物入りで日本盤が発売されました。「ニューウェイヴ&オールターナテイヴ派も必聴の強烈最新作」という文句が時代を物語ります。

 ほぼリアルタイムで日本盤が発売されたのは「ミラー・マン」以来のことです。ちなみに「ミラー・マン」の副題は「ザッパの弟分登場!」となっています。本人が聞いたら激怒しそうです。あれから10年。パンク/ニュー・ウェイブでキャプテンは日本でも復活しました。

 本作品は、まだ幻の作品「バット・チェイン・プラー」を引きずっています。前作「シャイニー・ビースト」に含まれなかった3曲のリメイクが収録されているんです。これに前作でのヴァージン・レコードとの確執も引きずっています。

 ビーフハートはよくよくレコード会社ともめる人で、前作ではヴァージンに訴訟を起こされています。契約解消を望んでいたビーフハートですが、結局、和解の上、専属契約を結ぶという形でようやく平穏を手に入れます。

 しかし、ここまでの確執は、♪お前は俺を灰皿の心のように使った♪と歌う「アッシュトレイ・ハート」、♪俺の骨の上に乗る奴らのことを考える♪と歌う「スー・エジプト」など、曲の中に反映されています。いつにもまして怒っているように思います。

 マジック・バンドは前作と多少異動がありました。かつてマジック・バンドで音楽監督のような立場にいたジョン・フレンチが参加しています。彼は「バット・チェイン・プラー」には参加しており、出たり入ったり忙しいことこの上ありません。

 もちろんジェフ・モリス・テッパーは健在です。前作よりも軽めの音になっていますが、ギターを弾きまくっています。前作を踏襲したサウンドになっており、やはり彼の存在が初期のビーフハート節を復活させたのだと言えるでしょう。

 邦題は見事に本作品を言い表しています。「美は乱調にあり」。普通の基準で言えばとっちらかった演奏ですからまさに「乱調」なのですが、これがどうしようもなく美しい。前作よりもさらにストイックになったサウンドが理解を超越した美をもたらします。

 「いま彼は異端から正統へ!!」。ニュー・ウェイブの台頭でビーフハートが再評価されたことを思うとその通りですけれども、彼のディスコグラフィーを丹念にたどると、何とも言えない気持にもなります。異端から正統を経てまた異端となりそれが正統となった。

 これもまたビーフハートの傑作。最高傑作という人もいます。その音楽は狂気の域にまで達しそうになってきており、だみ声によるボーカルもますます凄味を増してきました。このまま進むはずはないと思った人もいることでしょう。カウントダウンが始まりました。

Doc At The Radar Station / Captain Beefheart & The Magic Band (1980 Virgin)