キャプテン・ビーフハートのトリビュート・サイト、レイダー・ステーションを運営しているグラハム・ジョンソンは、「何というカムバック」といたく興奮してこのアルバムを語っています。かつてのキャプテン・ビーフハート節が戻ってきました。

 このアルバムは複雑な経緯を経て発表されました。商業的な成功を意図した前2作がさっぱり売れず、キャプテンは絵画の世界に引きこもろうとしました。そこにまたまたザッパ先生が登場し、キャプテンはマザーズのツアーへの同行することになりました。

 「ボンゴ・フューリー」にもなったツアーを経て、マジック・バンドを再開する気になったキャプテンの前に、まだ学生だったジェフ・モリス・テッパーが現れます。テッパーは「トラウト・マスク・レプリカ」のギター・パートを完璧に再現してキャプテンを驚かせます。

 キャプテンはテッパーへの他のミュージシャンの影響を徹底的に排除すべく、彼をクロゼットに閉じ込め、ミシシッピ・ジョン・ハートのブルース曲「レッド・クロス・ストア」を3時間にわたって聞かせ続けるなどの教育を施します。

 その結果、テッパーはビーフハートの難解な指示、たとえば「油の中から引きずり出された蝙蝠が、生きようとしているけれども、窒息で死にかかっているように弾け」、「くすんだ黄色い部屋をサルファー・イエローにするように弾け」を簡単に理解するに至ります。

 だんだん調子が出てきました。これでこそキャプテン・ビーフハートです。テッパーを中心にしたマジック・バンドを得たキャプテンはザッパ先生のアレンジで、「バット・チェイン・プラー」なるアルバムを完成させます。

 しかし、契約上のごたごたなどで発表が遅れる中、ブートレグが出回るに至ると、アルバムは放棄されてしまいます。やがてワーナー・ブラザーズと契約したキャプテンは「バット・チェイン・プラー」の新しいバージョンを作り上げました。それがこの作品です。

 マジック・バンドのメンバーもテッパーは居残ったものの、多くが入れ替わっています。中にはマザーズ人脈でアート・トリップが戻り、ブルース・ファウラーも参加してきました。テッパーを中心にとても充実したバンドです。

 1曲目が始まると初期のビーフハートが戻ってきたと嬉しくなります。全員がバラバラの演奏をしているようにしか思えない。キャプテンとメンバー以外には分からない理屈と感性で一つの曲にまとまっている、そういうビーフハート節が戻っています。この楽しみは深いです。

 一方、これまでのポップ路線も多少は影響しており、「トラウト・マスク・レプリカ」などに比べると聴きやすくはなっています。それに「アイス・ローズ」などを聴くと、マザーズの影響を強く受けていることが分かります。マザーズですらキャプテンに比べると聴きやすい。

 テッパーという理解者を得て、キャプテンは生き生きしています。ごたごたはあったものの、キャプテンのこれまでの変遷を経た上での前向きの先祖返りが成功しました。ビーフハートを紹介する一枚としては申し分ないと思います。

Shiny Beast / Captain Beefheart & the Magic Band (1978 Warner)