ヴォードゥー・ゲームの中心人物ピーター・ソロは西アフリカのトーゴに生まれています。彼のお母さんはヴォードゥーの司祭でしたから、彼女の部屋はヴォードゥーのシュラインになっていたんだそうです。

 そこではヴォードゥーのおまじないが行われて、病気になった人々をおまじないで治療していました。その際、音楽が大きな役割を果たしています。「音楽こそが人々をトランスに入れてほかの世界に連れていき、癒すことができる」。

 ピーターの父親はアフロファンクのレコードを全て買うようなレコード・コレクターだったそうです。朝っぱらからアフロファンクの流れる家庭に育ち、ヴォードゥーの音楽に浸っていた彼が音楽活動を始めると、その両者が溢れだしてくるのは自然なことでした。

 ヴォードゥーはゾンビで有名なブードゥー教ですけれども、「実際は自然と密接に結びついてる民間信仰」です。それは「哲学であり、生きる術であり、精神の国みたいなものなんだ」。自然信仰ですから、日本人にはあまり違和感がありません。

 ともかく、1999年にヨーロッパにわたったピーターは、当時流行していたワールド・ミュージックというレッテルの元にそれなりに話題になる活動をしていました。しかし、70年代のアフロファンクで育った彼は、ワールド・ミュージックに違和感を感じます。

 そうしてアフロファンクを現代に蘇らせることとし、ヴォードゥー・ゲームを結成します。メンバーはピーター以外はヨーロッパ人です。国籍にこだわらず、「ジェイムズ・ブラウンをはじめアメリカのファンクを含めたアフロ・ファンク、そんな音楽を好きなミュージシャンを集めた」。

 もう一つのこだわりは、録音環境です。ギターやベースなど楽器もヴィンテージものならば、録音機材も16トラックのアナログを使っています。「ステージで使っている楽器をそのまま演奏してアルバムを作っているんだ」ということです。

 そこまでこだわったサウンドはとても新鮮に響きます。重低音を響かせるのではなく、高めのキレッキレのファンク・サウンドは最近確かに聴かない類の音楽です。ヴィンテージ機材とは言え、やはり21世紀的なそのサウンドはファンク魂に溢れていて最高です。

 サウンドは米国流ファンク全開の曲だけではなくて、アフリカ中のファンクがブレンドされた素晴らしいものです。たとえば、多くの人が注目する「ドント・ゴー」はトーゴ固有の音階を使った曲で、「セネガルやマリのペンタトニックとはまったく違う」と語っています。

 「本当のヴォードゥーを伝えたいから」あえて使ったというこの曲にはヴォードゥーのエッセンスが詰まっているようです。もともとヴォードゥーの音楽は打楽器とボーカルのみで構成されていることから、旋律楽器を調和させることに腐心した結果が表れています。

 歌詞の簡単な解説が記載されています。人生に対する警句が詰まったその世界もねっとりとした音楽に相応しい。「人生は素晴らしいけれど、期待しすぎてはいけない、私たちは単純な物事にも感謝すべきで、人生には終わりがある事を忘れてはいけない」。その通り。

参照:CDジャーナル2016年11月号(高橋道彦)

Kidayú / Vaudou Game (2016 Hot Casa)