アルバム・タイトルになっている「キッド・ファンカデリック」とは、ギタリストのマイケル・ハンプトンのことです。マイケルは前作から参加したまだ20歳の若者です。ジャケットにブリーフ姿で描かれているのはマイケル本人なのでしょう。

 マイケルはエディー・ヘイゼルの後釜としてファンカデリックにはなくてはならなくなるギタリストですから、まだまだ若い彼を盛り立てようとするジョージ・クリントン御大の親心を受けてのアルバム制作なのだろうと思います。

 しかし、その割にはギターが縦横無尽に活躍するというわけでもありません。もちろん、パーラメントの作品に比べると圧倒的にギターの比重が大きいのですけれども、ここではむしろバーニー・ウォーレルのシンセが目立っています。

 シャワシャワ、ビョーンビョーン鳴るバーニーのシンセ・サウンドは、ぐちゃぐちゃのファンクにでもシンセが合うんであるというコロンブスの卵的な発見です。プログレ界に独占されていたシンセはもはや万人に解放されました。ムーグ博士も喜んだことでしょう。

 特に13分近くに及ぶタイトル曲は凄いです。マイケルのギターはどこへやら、バーニーのシンセが変な音を鳴らし続けます。コンガのリズムと不気味なコーラスを従えたシンセ・ソロ曲と言ってもよいくらいです。

 アース・ウィンド&ファイヤーを抜けて合流してきたジェシカ・クリーヴスは、この曲のレコーディングに参加したものの、♪ほい、ほい、ほい♪と歌うコーラスに肝を冷やし、「みんな悪魔に取り憑かれている」とスタジオから逃げ出したというエピソードが残っています。

 確かに延々と続く妙なシンセ音に合わせて、ホイホイ歌っている姿は鬼気迫るものがあったことでしょう。B級ホラー映画のシーンをみているようですから、ジェシカの反応は正しかったと言えましょう。なお、逃げ出しはしましたが、きっちりクレジットは残っています。

 最初にシングル・カットされたのは「アンディスコ・キッド」です。ボートラでシングル・バージョンも収録されているこの曲は、ジョージ・クリントン、バーニー、そしてブーツィー・コリンズの黄金トリオによる曲です。

 さすがによく出来た曲です。若干パーラメント的な作品ではありますが、バーニーのキーボードが割って入ってくるところなどは、ファンカデリックならではということでしょうか。この頃の使い分けはなかなか面白いです。

 パーラメントの作品は全体にかっちりと構成されており、曲の密度も濃いのに対し、ファンカデリックはもう少し緩い感じです。器楽部隊も自由度が高く、曲の構成もずるっとした感覚。ぐちゃぐちゃ度が高い。垂れ流しと言ってよいでしょう。

 そこがいいです。この頃のファンカデリックには何とも言えないずるずるの魅力があります。ペドロ・ベル画伯によるまとまりというものを一切考えないジャケット絵そのまんま。人間には自由が必要です。哲学すら感じるPファンクです。

参照:「P-Funk」河内依子

Tales of Kidd Funkadelic / Funkadelic (1976 Westbound)