このジャケットはキャプテンの画風ではないなあと思っていたら、やはりこれは彼のいとこの作品でした。可愛らしいような不気味なようなへんてこりんな絵です。何とも力が入っていない感じが漂うジャケ絵です。

 この作品はキャプテン・ビーフハートのファンからはぼろくそに言われているアルバムです。前作も酷評の嵐でしたが、こちらの方がなおひどい。生ぬるいだの何だのと散々な言われようですけれども、そうなると擁護したくなるのも人情です。そこまでは悪くない。

 前作を発表するとマジック・バンドの面々は全員去ってしまいました。キャプテンのメンバー扱いに嫌気がさし、さらに金銭トラブルもあった模様ですから深刻です。しかも、この事件は欧米諸国をツアーしてまわる直前のことでしたから大変です。

 前作からマネジメントを担っていたディマルティノ兄弟は急きょミュージシャンを集め、新たなマジック・バンドとします。兄弟が以前マネージしてたバンドや、ビリー・ジョー・ロイヤルというカントリー系の歌手のバッキングを務めた連中を連れてきたということです。

 何か月も修練を必要とした以前のマジック・バンドとの違いの大きさにいまさらながら驚きます。さすがのキャプテンもやる気があったのかなかったのか。この急造メンバーはツアーを終えた後、再び解散しますが、何人かはそのままこのアルバムのレコーディングに参加します。

 アルバムのレコーディングには他にもさまざまなセッション・ミュージシャンが集められました。中ではマザーズがらみで、エリオット・イングバーの兄弟アイラ・イングバーの顔が目立つくらいで、あまり馴染みのある顔ぶれではありません。

 確かにキャプテン・ビーフハートの初期の作品を思い浮かべると失望することでしょう。ここには凡庸なというと語弊がありますが、とても普通のミュージシャンによる普通の音楽があります。ビリー・ジョー・ロイヤルの曲を聴くと何となく腑に落ちます。

 曲の中では「キャプテンズ・ホリデー」なる楽曲が目を引きます。これはボーカルがない。何とも普通のカントリー風味のロックで、ボーカル代わりにハーモニカが活躍します。このハーモニカは本当にキャプテンが吹いているのか、いまだに謎とされています。

 要するにキャプテンすら不在らしい楽曲があるというわけです。キャプテンのやる気が疑われます。マネージャーのディマルティノ兄弟が何とかまとめ上げたのでしょう。よく頑張りました。契約を履行するために必死だったのでしょう。

 とは言うものの、キャプテンのボーカルは前作よりは昔のだみ声に近づきました。奇才ボーカリストとしての実力が顔を出しています。同世代のJJケール「セイム・オールド・ブルース」のストレートなカバーも味があります。

 さらに「オブザーバトリー・クレスト」やタイトル曲など佳曲も多い。ここは「キャプテン・ビーフハート、スタンダードを歌う」と観念して聴くとよいです。スタンダードではないんですが。普通の歌を普通に歌ってもやはりキャプテンは凄いなということが良く分かります。

Bluejeans & Moonbeams / Captain Beefheart & The Magic Band (1974 Virgin)