クロームの作品はダモン・エッジの自主レーベルであるサイレンから発表されています。このレーベルはしっかり運営されていて、クローム作品のボックス・セットを発表しています。お世辞にも売れたわけではないのに、大そう丁寧ないい仕事です。

 最初のボックスは1982年に発表されており、その際にボーナス・ディスクとして付いてきたのがこの編集盤「ノー・ヒューマンズ・アラウド」です。このアルバムは後にイタリアやドイツのレーベルから単体で発表されることにもなりました。

 この編集盤に収録されているのは、まず「リード・オンリー・メモリー」。これは1979年に発表されたEPです。そして、1981年の45回転12インチ「インワールド」、1980年のシングル「ニュー・エイジ」のB面曲、あと一曲は未発表曲です。

 「リード・オンリー・メモリー」はダモンのリビングルーム・スタジオで、アヘンを吸いながらぐだぐだしている時にできたのだそうです。オリジナル・サウンドトラックと記載がありますが、映画は撮られていません。

 20分強の作品で5曲の曲名が付けられていますが、全体を1曲ととられられます。少し前のクロームと異なり、ここにはダモンのハンマー・ビートはありません。全体をドローンが覆っており、いかにもグダグダした中で生まれてきた阿片チックな曲です。

 このドローン・ビートはPiLの曲からサンプリングされているそうです。12インチ・シングルの「デス・ディスコ」のB面曲「メガ・ミックス」がそれで、元は「メタルボックス」の「フォッダーストンプ」のリミックスです。ジャー・ウォブルのベースとジム・ウォーカーのドラムです。

 ややこしいのは本来はサンプルが逆回転となっているにもかかわらず、ドイツ盤はそうなっていないことです。両方を収めたCDもあります。しかし、サンプリングという言葉もない時代に、同時代のアーティストから引っ張ってくるとは見上げたものです。しかも大成功。

 朦朧としたビートに彩られた先鋭的なサウンドです。「エイリアン・サウンドトラック」から「ハーフ・マシーン・リップ・ムーヴズ」に行く道と、こちらに行く道がありました。「時計仕掛けのオレンジ」のコスチュームをまとった二人が登場するジャケット通りの世界観です。

 一方、「インワールド」2曲は次のアルバム「赤い露光」よりもさらにビートを強調したカッコいいロックです。ドラムはダモンの恋人ファビアンのバンドのドラマー、ジャン・ルー・カリノウスキーが担当しています。ストレートでタイトなビートです。

 「ニュー・エイジ」のB面曲「インフォーメイションズ」は「赤い露光」系、未発表曲「マニフェステイション」はドローン系です。ただし、ROMほどは先鋭的でもなく、分かりやすいサウンドになっています。さほど驚きはない。

 ROMが圧倒的に際立っています。英国のポスト・パンクの横綱級スロッビング・グリッスルと肩を並べて語られることに、このサウンドなら納得です。モノクロの荒涼とした世界に圧倒されます。モノクロームのアンビエント。インダストリアルなピンボケ写真。

No Humans Allowed / Chrome (1982 Subterranean)