フランク・ザッパのそれこそ星の数ほどある音源を保管してあるユーティリティー・マフィン・リサーチ・キッチンから、オーディオ・エンターテインメントを切り出す作業を許されるとは何と名誉なことでしょう。称号はヴォールトマイスター。

 任されたのはジョー・トラヴァース。ドラマーのジョーはバークレイ音楽学院を卒業後、1992年にロスに移り、そこでドウィーズル・ザッパと知り合い、フランク・ザッパの音楽を一緒に演奏します。他にはデュラン・デュランなどとも共演しています。

 その縁でヴォールトマイスターに就任した彼の最初の作品がこれです。タイトルも素敵です。「ジョーのガレージ」をもじった「ジョーのコサージュ」。ジョーの作品は、この後、シリーズ化されることになります。

 第一弾は3つのパートに分かれています。最初の塊は1965年のデモ音源です。マザーズがメジャー・デビューする前に制作されたデモで、メンバーはフランクの他にボーカルのレイ・コリンズ、ベースのロイ・エストラーダ、ドラムのジミー・カール・ブラック。

 そしてこの時期マザーズを通り過ぎた名だたるミュージシャンの中から、後にキャンド・ヒートに加入するヘンリー・ヴェスタインがギターで参加しています。後にマザーズが演奏するお馴染みの曲ばかりですが、彼の流れるようなギターが新鮮に響きます。

 二つ目の塊は、さらにその前、1964年もしくは65年のライブ録音です。ここは上記メンバーからヘンリー抜き。冒頭に置かれたインタビューで、フランクが、レイ、ロイ、ジミーのバンドにギタリストとして呼ばれたと語っている通り、いかにも三人のバンド然としています。

 このバンドがソウル・ジャイアンツで、1964年の母の日にマザーズと改名したバンドです。ここでの曲はライチャス・ブラザーズなどが歌った「マイ・ベイブ」、トラディショナルな「ウェディング・ドレス・ソング」、マーヴィン・ゲイの「ヒッチ・ハイク」など、いかにもな選曲です。

 最後の塊は、第二幕と同じメンバーによるデモ音源です。こちらは初めてフランクのギターがオーヴァーダブされている模様です。全部をフランクが弾いたのかは謎だとされていますけれども。モノラル録音ながら音質は素晴らしいです。

 いずれも丁寧なミックスがなされていて、音質は初期のオリジナル・アルバムよりも良いくらいです。ドラムの音にはさすがに限界はありますけれども、フランクのギターの音色などとてもクリアで素晴らしいです。

 こうした曲の合間にインタビューの音源が挿入される。こんなものまで録音していたのかと驚きます。それもそのはず、ザッパ先生はマザーズの特徴を「概念的継続性」にあるとして、マザーズの活動全体を「プロジェクト/オブジェクト」ととらえていたんです。

 音源に加えて、ヴィジュアル面、さらにはインタビューもその一部を構成しています。確かに私たちファンもアルバム毎というよりも、全体を愛でています。ですからこうした作品が出れば出るだけ嬉しい。ザッパ先生像が少しずつ完成していきます。まずはデビュー前。

Joe's Corsage / Frank Zappa (2004 Vaulternative)