ギル・スコット・ヘロンは「『ストリートのスティーヴィー・ワンダー』、『黒いボブ・ディラン』と称される70年代を代表するFunky系シンガー・ソングライター/詩人/MC」です。力の入った形容ぶりはスコット・ヘロンへの愛に満ちています。

 この作品は1976年の発表です。この頃、そんな形容で語られるギル・スコット・ヘロンのことを知っていたかといわれると、否、と答えざるを得ません。私が彼の音楽を知ったのは、レア・グルーヴによる再発見後のことでした。

 考えてみれば、1970年代、ブラック・ミュージックについて何を知っていたかと言われると、EW&Fやウォー、Pファンクにスティーヴィー、そしてモータウンでほとんど尽きてしまいます。マイケル・ジャクソンの大成功がブラック・ミュージックを主流に押し上げる前の話です。

 ギル・スコット・ヘロンは1949年シカゴ生まれの詩人です。12歳になるまでに小説を2冊に詩集を出版するという本格的な作家ぶりです。その後、大学の時にブライアン・ジャクソンと出会うと1972年にミッドナイト・バンドを結成して音楽活動を本格化させます。

 詩人ですからポエトリー・リーディングに端を発するスタイルで、ジャズとR&Bをブレンドした音楽が奏でるのが彼らのスタイルです。これはすなわちラップ・ミュージックの元祖ということになります。レア・グルーヴでの発見は必然だったと言えます。

 スコット・ヘロンとブライアン・ジャクソンの二人はアリスタ・レコードから10枚のアルバムを発表します。それは「そのクリエイティヴィティ、バンドのグルーヴ、そしてポピュラリティーもすべてが絶頂期にあった」時期のことです。

 このアルバムはアリスタでの3作目です。アナログでは二枚組、スタジオ録音とライヴ録音がほどよくブレンドされたファンキーなアルバムです。アナログ各面は「日没直前」「夕暮れ」「夜遅く」「真夜中と朝」と副題が付けられ、全体で夜を表現しています。

 編成はギルのボーカル、ブライアンのピアノとシンセを中心に、ドラムとベース、パーカッション二人にサックスとトランペットの8人、一曲だけギル以外のボーカリストが入って総勢9名です。ギターなし。いかにもファンキーな音が出てきそうな編成です。

 収録された楽曲には、後にクラブ・クラシックスとなるギルの代表曲「ザ・ボトル」や「イッツ・ユア・ワールド」などが含まれています。既発表曲も含めるのはライブならではの趣向で、そのライブはいかにも自由度が高いです。

 また、8曲目の「バイセンテニアル・ブルース」は、ギルの語りだけで出来ています。このライブが行われた年は米国独立200周年にあたります。♪ブルースは成長しているが、米国は成長しない♪と辛らつな言葉が連打されます。詩人の真骨頂です。

 ジャム・バンド的な自由なインタープレイがダンス・ビートに乗せて展開していくサウンドは、クラブ・シーンが再発見する運命にありました。同時代に知らなかったのはとても残念なもったいないことだったなとしみじみ感じます。

It's Your World / Gil Scott-Heron and Brian Jackson (1976 Arista)