ダイアー・ストレイツのデビューは1978年のことでした。当時、イギリスではパンクからニュー・ウェイブ、米国ではディスコ音楽がそれぞれ全盛を極めていました。そこに突如として登場したこのサウンドは何とも渋かった。「『場違い』の典型」とまで言われています。

 英国で発表された時には、英国国内ではほぼ無視された状態でした。しかし、オランダのラジオから火が付き、ドイツに飛び火すると、今度はオーストラリアと、国盗り物語のように着々と人気が広がって行きます。

 米国では伝説のプロデューサー、ジェリー・ウェクスラーがバンドに、「今回はこのままで出そう。でも、次はちゃんとした作品を作ろう」と告げていたそうですから、期待0でした。しかし、結果的には全米2位、英本国でも5位、その後世界で1500万枚を売り上げました。

 ここ日本ではどうだったかというと、反応は世代によって二種類に分かれました。一つは新たなニュー・ウェイブ・バンドとして素直に受け取った若い世代。私もこちらかな。もう一つは、一瞬、ボブ・ディランの新作かと思ったという少し大人の世代。

 前者を笑ってはいけません。当時、パンク/ニュー・ウェイブは何でもありでしたし、そもそもパブ・ロックがその範疇で語られていたわけですから、こうしたサウンドも若い世代にとってはある意味で新鮮だったんです。

 歳をとってから聞き直すと、どんどんディランっぽく聴こえてくるようになってきました。ディランは、実際、彼らのステージを見て、ギターのマーク・ノップラーと共演することを即決したといいますし、マークの歌声もディランを意識しているように思います。両者は近い。

 バンド名は金欠に悩まされていたことから付けられたそうです。そんな彼らを世に出したのはレコード会社の上司を説得し続けたジョニー・ステインズとプロデューサーのマフ・ウィンウッドの功績です。誰もが売れないと思ったスタイルなのに。

 この頃までは大人がロックを聴くとは思われておらず、若者は最先端に飛びつくものだと観念されていたので、こうした老成したギター・サウンドは売れないと思われていました。この作品が売れたということは、裕福な大人が市場に戻ってきたことかもしれません。

 邦題は「悲しきサルタン」、アルバムからの特大ヒット・シングル曲の題名です。セルフ・タイトル作品だとこういう邦題が付けられがちです。この曲は典型的なするめ曲です。さしたる盛り上がりもないのに、じわじわ来る。ギターのフレーズが頭の中で反復していきます。

 音数が少なめなベースとドラムのリズム隊に、マークとデヴィッドのノップラー兄弟の軽やかな音のギターが流麗に流れ、マークのディラン調の地味な歌唱を彩ります。ジェリー・ウェクスラーならずとも半完成品だと思う人も大かったでしょう。しかし、それもまた大きなお世話。

 いろいろな面で従来の音楽観を変えたという意味でパンクと意味合いが似ています。「悲しきサルタン」以外の曲も完璧な曲作りとギター・サウンドによって輝いており、永遠のクラシックとなりました。後に大活躍するのも頷けます。

Dire Straits / Dire Straits (1978 Vertigo)