ザ・スターリンの解散コンサートは1985年2月21日に調布の大映スタジオにて行われました。当時はCD1枚に編集され、「フォー・ネバー」と題されての発売でした。私も買いましたが、あまりピンとこなかったなというのが正直なところでした。

 しかし、時は流れてこうして完全版が出てくると印象は一変しました。ライブは2部に分かれていて、第1部は「フィッシュ・イン」の収録曲に、「虫」、ファースト収録の「溺愛」、そしてカセット・ブックの「ベトナム伝説」から「おまえの犬になる」で構成されています。

 ミディアム・テンポのダークでディープな楽曲ばかり。これなら私は大満足です。特に「おまえの犬になる」は遠藤ミチロウの楽曲の中でも一二を争う大好きな曲です。自虐的な歌詞が社畜の私にはぴったりです。

 一転して第二部は「ストップ・ジャップ」を中心とするパンク路線満載です。カバー曲ではストゥージズの「ノー・ファン」、ステッペン・ウルフの「ワイルドで行こう」、ジャックスの「マリアンヌ」、それに「仰げば尊し」パンク版とパンクの王道です。

 第二部のオープニングでは「爆竹を投げないでください」というアナウンスが入って興覚め感を漂わせてからのパンク攻撃。ザ・スターリンらしいです。しかし、最後は「ワルシャワの幻想」で締めるのかと思いきや、まさかの「フィッシュ・イン」です。そしてパッヘルベルのカノン。

 天性のエンターテイナーの側面とアーティストの側面が見事に融合した解散ライブだったわけです。「フォー・ネバー」ではこれがごちゃごちゃでした。アーティストの意図がはっきりとわかる完全盤の再現は素晴らしいことです。

 バンドは「フィッシュ・イン」と同じメンバーです。最小人数での力強い演奏が続きます。ギター・ソロもあり、ジャラジャラなるギターとともにミチロウのボーカルが唸ります。やや単調ではありますし、ミチロウさんにも疲れが見えるのですが、そこもライブならでは。

 バンド幻想を棄てて解散を選んだミチロウ、「パンクって、何だろうね。俺が聞きたいくらいだよ(笑)」と語っています。「スターリンやってた頃は『パンクは自己否定だ』って言い続けてたのね。まぁ、この言葉自体完全に70年代の言葉なんだけど(笑)。」

 「『スターリン』って言うバンド名をつけたのも、組織と個人の狭間で生じる様々な矛盾みたいなものがテーマだった」、パンクは「人間の矛盾してたり、ダメだったりする部分を掘り下げていくもんだと思うんだけどね」。私のパンク観はほとんどミチロウによります。

 「パンクは正義とか主張しだしたら、役目終わりですよ」、「みんなが正しいと思うようなことを掲げて寄り集まったってしょうがねぇだろう」。うーん、素晴らしい。「いろいろな物事に対して付けたクエスチョンへの答えって、何も出ないままでいたからね」。

 ザ・スターリンは、たまたま出会って関わったパンクとして、ミチロウの通過点となりました。この後、ミチロウは、ソロとして、さらにはスターリン、ビデオ・スターリンなど、さまざまな形で自在な活動を展開します。その起点の終点として、心して聴くべきアルバムです。

参照:「パンク天国4」DOLL5月号増刊(志田到)

I Was The Stalin / The Stalin (2012 Japan)