インドに魅せられる西洋人は想像以上に多いです。ジョージ・ハリソンを始め、ヒッピー全盛期の話だけではなく、その後も絶えることなくバックパッカーが訪れるばかりか、住み着いてしまう人も多い。そんな人たちに音楽は欠かせません。

 というわけで、ドイツ人プレム・ジョシュアもインドに魅せられた人です。5歳の時からフルートを演奏しているというジョシュアは、インドにやって来ると、シタールの師匠について修行を積んで、西洋音楽とインド音楽を折衷した音楽を演奏するようになります。

 1990年代の初めからインドで活動を続けており、今でも年間10か月をツアーに費やす活躍ぶりです。この作品は、2007年のツアーから代表曲をピックアップして編集されたライブ・アルバムです。名刺代わりの一枚ということになるでしょう。

 この時のプレム・ジョシュア・バンドのメンバーはジョシュアの他に3人です。そのうちの一人、サットギャン・フクダは名字から分かる通り、山梨県生まれの日本人です。ジョシュアのプレムやフクダのサットギャンはステージ・ネームです。

 パーカッションのラウル・セングプタはインド人の父親とドイツ人の母親の間に生まれ、ドイツで教育を受けた人です。音楽への愛に目覚めたラウルはドイツの音楽学校でドラムを学んだ後、世界中を旅してまわります。

 結果的に自身のルーツでもあるインドのコルカタに向かい、そこでタブラを師匠に学びます。その後、プレム・ジョシュア・バンドとしてツアーをするかたわら、さまざまなアーティストとの演奏を楽しんでいます。パーカション奏者ならではです。

 もう一人、チンタン・ルレンバーグはもはやプレム・ジョシュア・バンドにいないので、プロフィールが不明ですが、写真を見る限り、ドイツ人のようです。一番、ビジネスマンぽいルックスで、西洋人西洋人しています。

 そんなメンバーによる音楽はちょうど良くインド音楽と現代の西洋音楽が混じり合っています。シタールやタブラを始めとするインド音楽特有の楽器や、インドの古典音楽のボーカリゼーションを取り入れて、インドの香りを色濃く醸し出しています。

 しかし、たとえばタブラも目立ち過ぎはしません。インド古典音楽的なサウンドもありますけれども、行き過ぎない。「インド古典、ジャズ、ファンク、チルアウトの音楽マサラ」を作り上げる四人の手腕はバランスが行き届いています。

 マサラはインド料理に使う香辛料をミックスしたものです。この配合具合が各家庭によって異なり、それがおふくろの味になるという代物です。プレム・ジョシュア・バンドの音楽マサラは、特にインド大陸のバックパッカーに愛される味です。

 インド系無国籍音楽とでも言えばよいのでしょうか。アラブもインドもヨーロッパも、どこでも通用するサウンドです。フクダさんによる和テイストも恐らく隠し味になっているのでしょう。見事に折衷主義を貫く音楽であると思います。

In Concert / Prem Joshua & Band (2008 Living Media)