ザ・スターリンを解散させた遠藤ミチロウはソロとして活動を始めます。その直後くらいまでは追えていたのですが、次第にメディアから姿を消すこととなり、いつの間にやら縁遠い存在になっていきました。これはまだ遠くなる前に突如発表された作品です。

 驚きました。ザ・スターリンの最終作「フィッシュ・イン」をビル・ラズウェルがリミックスした作品でしたから、そりゃ驚くでしょう。パンクではありながら、とてつもなく和のテイストの濃い遠藤ミチロウがニューヨークのビル・ラズウェルと組むとは意外でした。

 発表したのは徳間ジャパンからで、同じレーベルがビル・ラズウェルのラスト・エクジットというプロジェクトの作品を日本で発売していた縁で実現した模様です。「フィッシュ・イン」はミチロウ主催のBQレーベルからでしたから、ジャパンからも発売したいと思ったのかもしれません。

 一般にビル・ラズウェルによるリミックスと呼ばれていますが、クレジットではビルは「ヘルス&アート・コンサルタント」とされています。そしてリプロデュースはビルの盟友ロバート・ムッソの名義になっています。ビルの役割がよくわかりませんね。

 リミックスとは言え、ビル・ラズウェルの12弦ベース、それにラスト・エクジット仲間のソニー・シャーロックがギターを追加していますし、ミチロウのボーカルも一部録り直されているとのことです。さらに難波弘之という意外な人もキーボードで一部参加しています。

 したがって、かなり音も差し替えられたり、追加されたりしているのですけれども、久しぶりにオリジナルと比べてみると、曲の骨格はまるで同じなので、雲泥の差というわけではないことがよくわかりました。その上で、差異を楽しんでいくのが正解です。

 そこをお断りした上で、最大の違いは何かといいますと、それはやはりギターです。ソニー・シャーロックの「居合い抜きのようなそのプレイにスタジオ中が喝采だった」そうです。手数の多いそのプレイは小野マサユキのギターとは違ってゴージャスです。

 それにドラムは同じ音源のはずですけれども、随分違って聞こえます。リミックスというのはそういうことだと言われればそうなのでしょう。ドラムの音だけ比べるとさほど違わないと思うのですが、リズム・セクション全体の印象は大きく違います。

 ミチロウのボーカルもここではやや熱めです。その熱さはとりわけ「アクマデ憐レム歌」のような饒舌な曲で威力を発揮します。本家「悪魔を憐れむ歌」のメロディーも一部顔を出すこの曲はリミックスの勝利ともいえましょう。

 一方、「フィッシュ・イン」は難波弘之によるアレンジが施され、20秒強長いバージョンになっています。♪海のなかへ 追いかけて 泳ぎながら 顔を見ている♪から始まる歌は、ミチロウが敬愛するジャックスを彷彿させます。

 力強いビートを伴ったアレンジによって朦朧としたオリジナルとは違う魅力を放っています。ここに代表されるように派手な音でザ・スターリンの最後を締めくくるリミックス盤は、これはこれでミチロウの曲作りの確かさを証明してあまりあります。私はオリジナル派ですが。

Fish Inn / The Stalin (1986 ジャパン)