こういう湿った曇天ポップをやらせると英国勢は強いなあとつくづく思います。しかも、スノウ・パトロールは北アイルランドとスコットランドという英国の中でも曇天度の高い地域の出身者からなるバンドですから無敵です。

 彼らはスコットランドのダンディー大学の学生が結成したバンドです。結成4年後の1998年にはファースト・アルバムを発表していますから順調です。メジャーに移籍したのは2003年のことで、移籍後初のアルバムは全英3位の大ヒットとなりました。

 このアルバムはメジャー第二作目、通算では四作目のアルバムです。英国では2006年の年間チャートの一位となり、通算すると1年以上もチャート入りしていたという特大ヒットアルバムになっています。

 特にシングル・カットされた「チェイシング・カーズ」はアメリカのテレビドラマで起用されたこともあって、全米5位となる大ヒットになっています。そして、日本でも「テラスハウス」のエンディングで使用されてヒットしています。

 この時の邦題が「しあわせがじんわり」です。美しい歌詞のバラードですけれども、この邦題には思わず笑ってしまいました。21世紀に入っても洋楽を浸透させるのは大変な苦労がつきまとうのだなと変な感慨を持ってしまいました。

 この作品では前作に引き続き、プロデューサーにジャックナイフ・リーが招かれています。リーはこの頃U2に係わっていましたから、そのつながりなのでしょう。前作のブレイクに大いに力があったリーにお願いするのは当然のことです。

 しかし、前作には必ずしも満足できていなかったようで、まずメンバーが交代しています。ベースが交代、キーボードに新たなメンバーを迎えて5人組となっています。さらに、キーボードのトムとドラムのジョニー・クインは楽器の正式なレッスンを受けました。

 何とも真面目な人たちではありませんか。こうした真面目な態度はサウンドにも表れています。実に折り目正しいサウンドです。曇天の風が吹きすさぶ草原なり荒地に似合う何とも切ない音楽です。嵐が丘の世界。とても英国的です。

 全11曲から6曲ものシングル・カットをしていることから分かる通り、どの曲もシングルとして通るポップさと端正な演奏に満ち満ちています。一曲一曲大切に大切に制作にあたったのだろうと暖かい目で見ている自分に気づきます。

 お薦めはゲリー・ライトボディがルーファス・ウェインライトの妹さんマーサ・ウェインライトとデュエットする「セット・ザ・ファイヤー・トゥ・ザ・サード・バー」です。うねうねするメロディーが腹の中にしみわたってきます。シングルとしては売れませんでしたが。(注:「娘さん」と書いていましたが、「妹さん」の間違いでした。お詫びして訂正いたします。ビーンボールさん、ご指摘ありがとうございました。)

 ブックレットには自分たちの名前は書いてありませんが、ストリングスやコーラスで参加した人々の名前はきちんと書かれています。英国を代表するバンドとなった彼らですが、真面目さが仇にならなければよいと切に思います。

Eyes Open / Snow Patrol (2006 Polydor)