「フィッシュ・イン」はザ・スターリンの最後のスタジオ録音作品です。一時期、この作品ばかり朝な夕なに聴いていました。これまでのスターリンの集大成にして最高傑作だと思います。歌詞にしてもサウンドにしても、突き抜けて素晴らしいです。

 ザ・スターリンには伝説のファースト・アルバム「トラッシュ」があります。この頃にはすでに入手困難でしたし、今のようにネットもありませんでしたから、その伝説度はいや増しに増しており、そちらに思い入れのある人が多く、そっちが最高傑作だと一般には言われていました。

 しかし、ミチロウさんもザ・スターリンはアルバムを出すごとに進化していると当時語っており、「トラッシュ」人気に異議を唱えていました。私も「トラッシュ」を持っていましたが、ミチロウさんと同じ意見でした。パンクというよりニュー・ウェイブ好きでしたし。

 このアルバムには全部で6曲しか入っていません。A面に4曲、B面にはわずか2曲です。全体で30分強と短いのですが、その中でも最後の表題曲は10分を超える大作です。他の曲もパンクにしては長めの曲ばかりです。

 メンバーは遠藤ミチロウ以外は前作からすっかり代わっています。ギターにはアレルギーというバンドの小野マサユキ、ドラムはイヌイ・ジュンが復帰、ベースにはミラーズからチャンス・オペレーションのヒゴ・ヒロシ、それにボーカルのミチロウの四人です。

 このアルバムは後にビル・ラズウェルによるミックス違いが発表され、長らくそちらが正規盤扱いとなっていました。要するにこのオリジナル・ミックスは入手困難だったんです。CD化されたのが2005年のことです。

 私などはこのオリジナル・ミックスに愛着があります。これを聴いていたわけですから当然です。リミックスに比べたスカスカ感がこのアルバムの雰囲気でした。実はCD化されて久しぶりに聴き直してみて、頭の中ではスカスカ化が進行していたことが分かりました。

 意外としっかりとした力強い演奏で、決して派手ではありませんが、地の底から響いてくるようでいながら、ニヒルなタッチを失わない見事な演奏だと思います。一言で言えば熱くない。どこか冷めたところのある演奏です。

 そんな演奏に乗せて、ミチロウが歌う世界は、饒舌なミチロウと突き放すミチロウが同居しています。「アクマデ憐レム歌」は「ストップ・ジャップ」的な饒舌さの典型、一方、「フィッシュ・イン」は10分の大作なのに歌詞は短い文でできています。

 正反合、弁証法的なゴールにあると言えます。歌詞の中でも私の人生に寄り添っているのが「M-16」。♪用がないと幸せなんだ♪、♪後ろがないとうらやましいんだ♪という一節は今でも頭の中で事あるごとに鳴り響きます。

 ザ・スターリン自身は短い活動期間でしたけれども、ここにこうして後の世に残せるアルバムが発表されたことで良しとしたいと思います。この後、ミチロウさんはソロとなっていくわけですが、その気持ちもよくわかる完成度です。

Fish Inn (Original Mix) / The Stalin (1984 BQ)