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 ザ・スターリンは自主レーベルのポリティカルからファースト・アルバムを発表しました。今や伝説となっている幻のアルバムです。中古LPは万単位の金額で取引されたウルトラレア盤となっていました。私もずいぶん鞘を抜いたものでした。
 
 それはともかく、本作品はその翌年にメジャー・レーベルの端くれ、徳間音工から発表されたセカンド・アルバムです。最もパンク的なバンドだったスターリンがメジャー・デビューすることに複雑な心境でしたが、サウンドは圧倒的に素晴らしかったので折り合いがつきました。
 
 遠藤ミチロウは、「全国の不健全なる青少年少女並びに落ちこぼれ、変態、根暗人間、異常愛国者、および名誉ある売国奴諸君!」に「買え!」と呼びかけました。ミチロウは学生運動世代なだけにアジ演説が様になっています。
 
 当時の彼らは、「周りと比べると年も食ってるし、演奏も下手だし普通にやってても客は来ない」ので、「戦略的に考えた結果」、過激なステージを繰り広げました。具体的には豚や鳥の臓物やら皮やらなにやらを客席に投げつけたり、全裸になったり。
 
 私も一度だけですが、ステージを見にいきました。もはや客はいつ臓物が飛んでくるかワクワクしている状態で、お約束の展開でしたから、さして衝撃はありませんでした。このアルバム発表直後でしたが、すでに過渡期に入っていたのでしょう。
 
 この作品はメジャーから発表なので、レコード倫理審査会の審査を受けています。「歌詞の問題が指摘され、四十カ所ぐらいを修正することになった」そうで、何よりも言葉を大切にしているミチロウさんには耐え難かったことと思います。
 
 「映画にも出てライブの動員もさらに増えたけれど、レコード会社との関係はストレスでした」が、吉本隆明に「メジャーで表現できなくなればまたインディーズに戻ればいいんだ」と言われてふっ切れた模様です。したたかなパンク、遠藤ミチロウの真骨頂です。
 
 このアルバムには、「スターリニズム」所収の「コルホーズの玉ネギ畑」を再演した「玉ネギ畑」や、デビュー・アルバムの「メシ食わせろ」改め「ワルシャワの幻想」など、既発曲の再録も収録され、メジャーからのデビューらしい内容になっています。
 
 全15曲で35分程度とパンク的に短い曲ばかりで構成されており、勢いで突っ走る演奏が小気味よいです。ドラムにベースにギター、そしてボーカルの4人組によるパンクな演奏です。B面は若干長めの曲も含まれ、そのサウンドはセックス・ピストルズの匂いがします。
 
 何よりもその歌詞が素晴らしいです。遠藤ミチロウは現代詩ではなくてあくまで肉声としてのコトバ、リズムと対峙する関係に流れ込むコトバを追及した人です。その放出されるコトバは的確に聴き手をえぐっていきます。
 
 ♪オレの存在を頭から輝かさせてくれ!おまえらの貧しさに乾杯!メシ食わせろ!♪。素晴らしい。10万枚以上を売り上げて、日本パンク界最大のヒットとなったにふさわしい、いかにもパンクな内容が圧倒的な存在感で迫ってきます。
 
参照:「新家の履歴書」(週刊文春2015/7/30)
 
Edited on 2020/7/4
Stop Jap! / The Stalin (1982 徳間音工)