日本のパンク界の至宝ザ・スターリンは「『金をかけて売れた音楽=良い音楽』この公式を引き裂きたい」と、「割と単純に」自主レーベル「ポリティカル」をつくって、「電動こけし」と「肉」の2曲入りソノシートでレコード・デビューしました。1980年9月のことです。

 この時、ザ・スターリンそのものの遠藤ミチロウは30歳直前でした。ソノシートは「千枚つくっても、一枚二百円で売れば十分費用が回収できるし、押し売りもし易い。実際発売してから、三か月で九割近く捌けたのには作った自分がびっくりしたぐらいだ」。大人です。

 ポリティカルからは「ザ・スターリニズム」というEPが続きました。このアルバムは、その2枚の音源に加えて、後の名作「フィッシュ・イン」添付のソノシートとオムニバス作品への提供曲を加えたザ・スターリンの非LP化作品をまとめた作品です。

 私は「ザ・スターリニズム」をリアルタイムで入手して、一気に遠藤ミチロウにノックアウトされました。当時、日本のパンク界は大手レコード会社主導のパンク勢が出現するなど、パンクの精神とは程遠い状況にありましたから、彼らに本物を見たと思ったんです。

 「日本的という臭いことばからポン引き根性や毛唐コンプレックスみたいのを全部ひっぺがしたとき、そこに現れるのはとてつもなくみすぼらしいものだが、その裏には、ぼくもあなたもない限りなくやさしく残酷な親和感が付着している」とミチロウは語ります。

 「音も言葉もなかなか信じれないところでスターリンはその関係妄想にぐちょぐちょになりながら被虐的、かつ騒々しくやっていこうとこだわっている」ミチロウは、「千数百年培われた風土コンプレックス」を持つ東北出身者として日本の地底深くから歌います。

 最初のソノシートは録音などお話にならず、勢いだけが何やらすごいことになっています。「ザ・スターリニズム」は少しはすっきりしましたけれども、とてもプロ仕様とは言い難いです。音質的には残念ですけれども、パンクとしては満点です。

 しかし、楽曲の数々はいずれも凄いです。特に「サル」などは不敬の極み、引用することすら憚られます。「スターリスト」改め「アーチスト」では、ミチロウの言葉の真価を発揮するアジ演説が素晴らしいです。

 「コルホーズの玉ネギ畑」では♪私の病気は玉ネギ畑♪と繰り返します。「『玉ネギ病』は人それぞれ症状」があります。それは「近代風土病」であり、「東北型時間差負怒病」。「追いつめられて、なにをしでかすかわからない」病、自閉症が併発して「玉ネギ病」。

 「とにかく涙が止まらないのだ。泣けるのだ。理由もなく」。遠藤ミチロウの言葉はぽっかりと虚無的な感覚をもってつきささってきます。その切っ先はより構造的なところに向かい、世界と深いところで対峙しています。とにかくパンク。

 現代詩を諦め、歌うことだと観念したミチロウの初期の姿を伺えるのは何よりですが、後期の音源との編集は余計でした。しかし、ポリティカルからの名盤「トラッシュ」が未発売であることを考えると、これは快挙でしょう。

参照:「嫌ダッといっても愛してやるさ」遠藤ミチロウ

Stalinism / The Stalin (1987 インディペンデント)