ジャケットはサウンドとおよそ似つかわしくありません。オーバーダブ一切なしのソロ・ギター作品ですから、こういうジャケ写になったのでしょうが、アルバムを埋めているのはもっとカラフルなサウンドです。

 パット・メセニー初の全曲カバー集です。何でもできる人なのでカバーを演奏するだけならばいくらでもアルバムが作れそうですが、過去40枚近い作品の中ではとにかく初のカバー集です。若いうちはやはり潔しとしなかったんでしょう。

 ここで使っているギターはバリトン・ギターです。通常のギターよりもロング・スケールのギターで、何でもチューニングにはっきりした決まりがないそうです。そこでジャケットにはパットによる本作のチューニング指南が掲載されています。さすがはギター職人です。

 ただし冒頭の「サウンド・オブ・サイレンス」には42弦のピカソ・ギターが使用されています。何とも凄まじいギターです。どうやって弾くのか皆目見当がつきませんが、もちろん特注なので、パットにとっては弾きやすくできているのでしょう。

 選ばれた楽曲はどれもこれも有名な曲ばかりです。中でも、「サウンド・オブ・サイレンス」はご存じサイモンとガーファンクル、「雨の日と月曜日は」はカーペンターズ、「アンド・アイ・ラヴ・ハー」はビートルズと有名具合が別次元です。

 パットによれば、バリトン・ギターを持ち歩くようになって、「毎日のように、誰でも知っている有名なメロディーを弾いていると、いろいろなお客さんや地元のクルーが、その曲はどのアルバムに入っているんですか?と聞くんだ」ということがアルバム制作のきっかけです。

 「こういう曲を収録したアルバムをいつか出さなきゃいけないな、と思っていたんだ」そうで、それがついに実現したのがこの作品です。彼は以前、アコースティックなソロ・アルバム「ワン・クワイエット・ナイト」を出しており、同作品はグラミー賞も受賞しました。

 本作はその作品と同様、深夜パットの自宅で制作されています。ほんの短期間で出来上がったそうです。曲自体はパットの幼少時代から10代前半の頃にチャート入りしていた有名曲ばかりですから、時間がかからなかったのでしょう。

 その頃の歌は、「メロディーやハーモニーがポップスの中で不可欠な要素だと考えられていた」わけですから、地肩が強い。大胆なアレンジを施しても、「どんな方法で演奏したとしても、音楽と言う根本的な次元で、単純にヒップでカッコいい何かを持っている」んです。

 どの曲もスタンダードな曲ばかりですから、下手を打つと「魅惑のギター・サウンド大全集」的なチープなことになりそうですが、そこはさすがにパット・メセニー。凛とした威厳を保っています。若い頃の流麗なギターとは違うごつごつしたギターです。

 ビートルズの「アンド・アイ・ラヴ・ハー」に典型を見ます。あと少しでも叙情に流されると、どうしようもなくなるぎりぎりのところで踏みとどまっています。何とも爛熟した世界です。若いパットもいいですが、こうした枯れたパットもなかなか美しいです。

What's It All About / Pat Metheny (2011 Nonesuch)