ECMから発表されたスティーヴ・ライヒの「18人の音楽家のための音楽」は、それまで現代音楽に縁のなかった私にも何ら違和感なく聴くことができました。ECMですからジャンル的にはジャズの流れでやってきてくれたのがまずは良かったのでしょう。

 同じような人も多いのではないかと推察します。ライヒの属するミニマル・ミュージックが広く世間に浸透していくきっかけとなった作品だと言ってもよいのではないでしょうか。フィリップ・グラス、テリー・ライリーと合わせてミニマル三羽烏です。

 「ブランコを引いて、手を放す。そして、ブランコの揺れが次第次第に止まってゆく様子を観察する」、「砂時計を逆さに置き直し、砂が緩やかに下へ流れてゆく様子を見守る」、「波打ち際の砂に立ち、波によって徐々に足が砂に埋まってゆくのを見、聴き、感じる」。

 ライヒ自身が語る、ライヒの音楽を体験するということを比喩的に表現した言葉です。ライナーを書いている近藤譲氏の言葉を借りると、「響きの緩やかな変化の過程そのものとしての音楽」ということです。常に揺れ動いて変化している音。

 この作品は、ライヒのその探求の集大成です。それが証拠に、ライヒはこの作品を書き終えた後、「しばらく作曲の行き詰まりに悩むことにな」ります。それほどに、精根尽き果てるまでに、全精力を使い果たした作品なんです。

 「18人の音楽家のための音楽」はタイトル通り、18人の演奏者によって演奏されています。このCDではスティーヴ・ライヒ自身もピアノとマリンバで参加しています。この時点ではライヒ史上最大の規模の編成だそうです。

 楽器は、バイオリン、チェロ、クラリネット2本、女声4人、ピアノ4台、マリンバ3台、シロフォン2台、メタロフォンという構成です。奏者は楽器を掛け持ちしていますが、入れ替わっている模様なので、結局、総勢18人になっています。

 メタロフォンはヴィブラフォンをアコースティックに弾く際の名称だそうです。また女性の声は歌詞を歌うのではなく、楽器的な使われ方です。よく聴かないとどれが声だかわからないほど、楽器に徹していて、さすがはプロだと唸ります。

 電子楽器は一切使われていないんですが、とても電子音楽的なところが面白いです。いや、電子をさらに超えてクォークが作り出すパルスのような感じがします。世の中のあらゆる物体を作っている素粒子の踊りのようなイメージです。

 声を含めたすべての楽器が細かく刻むビートを奏で、それがもつれ合い、絡み合って、得も言われぬ模様を作り出していく。ジャケットの図案そのままの世界です。単純なビートがあらゆる複雑な事象を作り出している。まさに素粒子による世界です。

 そんなことを考えさせる音楽ですけれども、娯楽的にも十分に楽しいです。音のパルスに身をゆだねていると体のあらゆる部分が共振してくるような気がします。ライヒの言葉を思い出して、街に出てみるとさらによいかもしれません。外で聴いてみてはどうでしょう。

Music For 18 Musicians / Steve Reich (1978 ECM)