「オマドーン」という言葉は辞書にはありません。英語のイディオットをゲール語に訳してアマダン、それがなまってオマドーン。マザーグースを思い出させるような話で、いかにもマイク・オールドフィールドらしいと思います。

 「チューブラー・ベルズ」から始まる初期三部作の最後を飾る作品で、前2作を踏襲して、A面B面をすべて使った「オマドーン」1曲でできています。前2作との違いは、自分専用のスタジオで制作されていることです。

 ヴァージン・レコードはマイクの要求をのみ、マイクの家に機材を送り込んで完璧なスタジオができました。何でも費用は結局マイク持ちだったようで、さすがは商売人リチャード・ブランソンです。人の使い方も上手です。

 専用スタジオで制作にかかったマイクでしたが、テープの劣化問題に悩まされ、解決するまでにアルバム片面分の録音を無駄にしてしまうという災難に見舞われます。そもそも膨大な時間をかけて音楽を制作する人ですから、時間数にすると大変なロスだったことでしょう。

 しかし、逆境があると人は燃えるものです。結局はこうした傑作がものにできました。今回は比較的ゲストが多く参加していて、参加ミュージシャンとの相互作用も大きかった模様です。それも災難の影響があるかもしれません。

 ゲストで目立つのは何といってもアイルランドを代表するバンドであるチーフタンズのリーダー、パディ・モローニでしょう。アイルランド音楽をとことん探求しているバンドで、その姿勢と作品の質の高さはワールド・ミュージック界の最高峰にあります。

 ここにアイルランド出身で前作にも参加していたメロウ・キャンドルの女性ボーカリスト、クローダー・シモンズが加わって、本格的なアイルランドの魂がはじけました。迎え撃つマイクもこれまで以上に気合が入ったことでしょう。

 他にはゴングのピエール・モエルランのようなカンタベリー人脈の顔も見えますが、異色なところでジュリアン・バフーラ率いるアフリカン・パーカッション・グループが目を引きます。アフリカ、アフリカしているわけではありませんが、控えめながらいい仕事をしています。

 ここから振り返って、「チューブラー・ベルズ」はロック、「ハージェスト・リッジ」はフォーク、ライナーでデイヴ・レインは、そう対比させて、この作品を「わたしたちが現在『ワールド・ミュージック』と呼ぶジャンルの最初期の例に挙げられるべき作品になっている」と書いています。

 「ワールド・ミュージック」という言葉にはさまざまな色が着いていますから、賛成する人も反対する人もいるでしょう。しかし、この作品がそれまでのロックやフォーク、すなわち英国の大衆音楽の枠をはみ出して民族の深いところに触れたことは間違いなさそうです。

 美しいテーマといい、それに導かれて次第に盛り上がっていく構成といい、これまでの集大成となっています。ここに完結した三部作は、いつまでも英国人の心をとらえて離さないようです。英国で4位、米国で146位という数字がこの作品の英国らしさを証明しています。

Ommadawn / Mike Oldfield (1975 Virgin)