ジグソーと言えば「スカイハイ」、「スカイハイ」と言えば、千の顔を持つ男、ミル・マスカラスです。今とは違って、プロレスがまだメジャーな人気スポーツとして栄えていた、古き良き時代の話です。どうしてあんなに人気があったんでしょう。

 ジグソーの「スカイハイ」は、日本でミリオンセラーを記録したと言われています。リバイバルでマスカラスのテーマとなった時にもオリコンで2度目の一位を獲得するロングセラーでもあります。日本人の琴線に触れまくりです。

 ただし、全米3位、全英9位となっていますから、日本だけの現象ではなく、世界的な人気を博した楽曲なんだと言えます。残念ながら、こんな大ヒットはこの曲だけで、他のシングル曲はそこそこのヒットに終わっています。一発屋的な捉えられ方をする典型例でしょう。

 もともと「スカイハイ」は香港映画「香港から来た男」のために書かれました。この曲の大ヒットのおかげで映画の邦題は「スカイハイ」にされています。B級映画のための急ごしらえの楽曲なので、プレス枚数も少なかったのに、ラジオで火が付いたようです。

 ジグソーは英国のバンドで、結成は1968年の頃です。さまざまなバンドからの寄せ集めなのでジグソーです。中心はドラムでボーカル担当のデス・ダイヤーとキーボード担当のクライヴ・スコットの二人で、彼らが曲作りとプロデュースも担当しています。

 デビュー・アルバムは1971年で、何とプログレッシブ・ロック的なサウンドだったんだそうです。その後、本来の持ち味であるメロディアスなポップ路線に転向し、4枚目の「愛の想い出」でピークを迎えます。このアルバムは1975年発表の5作目となります。

 「スカイハイ」の特大ヒットを受けて制作されたアルバムです。もちろん冒頭に「スカイハイ」を置いて、あわよくばその後も聴いてみて下さいというへりくだった姿勢が感じられます。続く楽曲群も極めて美しい流れるメロディーをもったポップな楽曲ばかりです。

 どの曲もタイミングさえ合えば大ヒットしてもおかしくないように思えてしまいます。それほどポップに徹していて、演奏もポップ向けに適度にタイトに決めています。エア・サプライが近いでしょうか。しかし、彼らには結局「スカイハイ」以外のヒットは生まれていません。

 やはり決め手に欠けると言わざるを得ません。この後、彼らはあたかも自分たちのバンド・メンバーであるかのように黒人をジャケ写に入れ、ファルセットを多用して黒人仕様を目指したりしていきます。少し空気を読み過ぎなきらいがあるバンドであることが分かります。

 そんなバンドが、やっつけ仕事で大傑作「スカイハイ」を生み出したというところに因縁を感じます。考えすぎるよりは、何も考えない方がよい。そんな哲学してみたくなります。どんどん空高く舞い上がっていく。考える暇がありません。それが良かった。

 時代を超えて今でもよく流れてくる特大ヒットを生んだ人たちという事実だけで、私には充分です。美しいボーカルとメロディーに溢れているのに、「スカイハイ」がすべて持って行ってしまいました。音楽の神がくっきりと焼き印を施したアルバムです。

Sky High / Jigsaw (1975 BASF)