中谷美紀や菅野美穂、最近では満島ひかりなど、アイドル・グループ出身で女優として大成した人は多いですが、不思議なことに歌手として大物となった人は思い当たりません。もともと歌手なのに、いや、もともと歌手だからこそソロとしての歌手活動が難しいのでしょう。

 アイドルとアーティストは住む世界が違うのかもしれません。同じ歌手というフィールドで戦うのが難しい。しかし、AKBグループやハロプロなどは大量のメンバーを抱えているわけですから、そろそろそういう人が出てきてもおかしくはありません。

 山本彩はその第一号になるかもしれません。AKBグループからは結構な人数がソロ・デビューしていますけれども、NMB48の中心となっていた山本の初アルバムは少し毛色が違います。アイドルの作品というよりも、シンガー・ソング・ライターとしてのソロです。

 彼女はNMBでデビューする前にバンド活動をやっていて、ギターをバリバリ弾いていたので、十分素地はあります。そして、ソロのシンガー・ソング・ライターとしてやっていきたいという希望をずっと持っていましたから、夢がかなってのデビュー・アルバムです。

 全13曲中7曲が自作曲という自作中心のアルバムなので、シンガー・ソング・ライターのアルバムとしては申し分ありません。他の6曲は、グレイのタクローやスガシカオなどのビッグ・ネームや、名前はさほど有名ではなくても曲を聞けばだれもが知っている人たちの作です。

 いつもはもっと前面に出てくる秋元康は1曲山本の楽曲に歌詞をつけているだけです。ここでは椎名林檎とのコラボで有名な亀田誠治が全面的にサウンドのプロデュースをしています。かなりアーティスト寄りの制作姿勢です。やはり他のAKB勢のソロとは違います。

 演奏も亀田のベースを中心としたバンド形式となっており、その点でもシンガー・ソング・ライターのアルバムらしいです。山本彩はもともと歌がうまいことに定評がありましたし、ここでは暖かく見守られながらアーティストっぷりを発揮しています。

 亀田は、「たとえば私が“こういうフレーズがいいと思うんですけれど”と言うと、やわらかく受け止めてくださるんです。なので私もどんどんアイデアを出していけました」。プロデューサーとアーティストの理想的な関係ですね。アルバムのはつらつ感の秘訣かもしれません。

 山本彩は「自分1人で13曲も歌うと飽きが来ちゃうだろうから、そういう意味では曲によって声色を変えてみたりとか、1フレーズ1フレーズ意識しながら歌うようになりました」と、これまたアーティストらしいところを見せています。

 ただし、さほど冒険があるわけではなく、ロック寄りJポップ系の女性アーティストの典型的な作品に仕上がっています。「雪恋」や「月影」など、大御所作曲に比べると感覚が新鮮な自作曲も丁寧に編曲がされていて、手堅くまとめられたいいアルバムに仕上がっています。

 一つ残念なのは、彼女のギターが聴けないことです。「演奏と歌を同時に録ったのですごい緊張感がありましたね」という「ひといきつきながら」でブルース・ハープを演奏しているのみ。次は山本彩バンドでの演奏を期待しています。

参照:Deview

Rainbow / Sayaka Yamamoto (2016 Laufh And Loud)