これがECMのマジックでしょうか。普通であれば失敗作ともいえる写真を使って、見事に美しいジャケットに仕上げています。写真学校に提出したら指導されそうな、無造作にとったとしか言えない写真なのに、何だか爽やかです。

 パット・メセニーはソロ・デビュー後、順調にキャリアを重ね、キーボードのライル・メイズとの出会いから自らのグループを結成します。この作品は、パット・メセニー・グループとして、「想い出のサン・ロレンツォ」に続く第二弾です。

 タイトルは「アメリカン・ガレージ」。ジャケットの写真はトレーラー・ハウスでしょうか、いかにも米国的なイメージです。裏ジャケには、アメリカン・ガレージで演奏する四人の姿が写っています。極めて説明的な写真です。

 アルバムはマサチューセッツ州にある農場で録音されたとジャケットには書いてあります。ライナーノーツでは実際にはボストンで収録されたと書かれているのですが、他の資料にはそちらをサポートするものは見当たりませんでした。真偽のほどはどうなんでしょう。

 パットによれば、「レコーディングは、いつも早くって、1日か2日で終わってしまう」そうです。年間300ステージもこなすグループですから、「レコーディングのためにリハーサルしたり、改めて打ち合わせたりする必要がない」んです。

 みんながスタジオに入って、一気にやるんだそうで、「ひとりずつマルチ・レコーディングするわけでな」い。この作品では、ライルがシンセサイザーを使っていますから、オーバーダブは多少はしているのではないかと思いますが、どうでしょう。

 このグループは、結成以来、「わかりやすく、やさしくて、明るい音楽」を目指しています。ジャズの世界から大きくポップスの世界ににじみ出てきているという意味で、クロスオーバーないしフュージョンと呼ばれた意味もよく分かります。

 それに今作では、タイトル通り「アメリカン・ガレージ」がイメージされていて、特にタイトル曲はまるでロックなカウントから始まります。曲調もロックで、ガレージ・サウンドを強く意識したサウンドが展開されています。

 しかし、裏ジャケの写真には、米国の田舎のガレージに集う長髪の若者たちが演奏しているものの、どうしようもなく端正です。パットのスニーカー、白いシャツ、ジーンズの着こなし、長髪も含めて、とても清潔です。

 サウンドも端正そのもので、これだけ華麗なテクニックを見せられると、ガレージ・サウンドの対極にあるように思えます。ガレージはガレージでも、中産階級から富裕層のガレージでしょう。後に常連となるグラミー賞に初めてノミネートされたのが象徴的です。

 しかし、こうしたサウンドは当時とても斬新でした。手伝っていた友達の喫茶店でよく流れていたことを思い出します。ロックばかり聴いていた身としては苦手な類の音楽でしたが、それも今は昔。今となっては、テクニック抜群な4人のサウンドを結構楽しんでいます。

American Garage / Pat Metheny Group (1979 ECM)