「ロック・オン」はインド初のロック映画です。ロック・バンドの10年ぶりのリユニオンを描いたボリウッド青春映画はカルトな人気を得ました。私は映画館で見ました。言葉は分からなくてもストーリーは誰にでも分かります。熱い青春映画でした。

 音楽を担当しているのはボリウッドの音楽担当トリオ、シャンカル・エヘサーン・ロイで、通常のボリウッドものと違って、ここではあえてロックで勝負しています。具体的にはプログラミングなどを一切使わず、ロック・バンドによる演奏を使用しています。

 タブラもハルモニウムもストリングスも入りませんし、インド音楽風なアレンジもありません。ストレートなロック・サウンドをスタジオ・ライブ的に録音したと言いますから徹底しています。こんなサントラはボリウッド始まって以来だそうです。

 正確には9曲中5曲が劇中バンドのマジックの歌。2曲バラードが入っていますが、そちらは女性歌手が歌っており、こちらはバラードながら、やはりバンド演奏です。残る一曲はバリバリのヘビメタ・サウンドです。劇中での対バンによる曲です。

 対バンで出演したのはムンバイのヘビメタ・バンド、ドリーム・アウト・ラウドで、ここではそのボーカリスト、スラジ・ジャガンがド迫力のボーカルを披露しています。ボリウッドの歴史上、最もハードな曲だとの評判です。

 マジックは男優4人によるバンドで、演奏は別人ですけれども、ボーカルだけは別人ではなく、映画と同じくファラン・アクターが担当しています。この作品も担当している人気作詞家ジャヴェド・アクターの息子さんで、映画監督としても有名な若者です。

 声楽の伝統が深いインドでは、ファランのしゃがれ声による歌は「訓練されていない」と一刀両断です。彼自身、この映画では歌が必須と知って、絶対に選ばれないと思っていたそうです。それがロック的には成功しました。青臭いボーカルは作品にぴったりです。

 マジックのサウンドは、ギターのリフを中心に据えたロックで、1970年代ロックの香りがします。バッド・カンパニーあたりでしょうか。エヘサーンのギターもロック心をそそります。すれていないストレートなロックは何だか懐かしいです。

 映画の監督はシャンカル・エヘサーン・ロイに音楽を頼んだ理由として、「もともと三人組でバンドだから」と語っています。彼らは本当にバンドを組んで見事に監督の期待に応えました。まさにプロの仕事でしょう。

 ただ、残念なこともあります。対バンはそのまま収録してほしかった。ドリーム・アウト・ラウドは歌だけでなく演奏も聴きたかったですし、もう一つ出ていたインディーズ系のシャアーイ&ファンクに至っては全く収録されていません。

 また、ジョーのギターがさまになっていません。演じる超二枚目俳優アルジュン・ランパルはこの映画に備えてギターを習ったそうですが、そんなことをせずに、ダイノジにエアギターを学ぶべきでしたね。

Rock On / Shankar Ehsaan Loy (2008 BIG)