今やすっかり新しいジャズを代表するアーティストとなったロバート・グラスパーのエクスペリメントが新作を発表しました。デビュー作の「ブラック・ラジオ」はグラミー賞を受賞しましたし、ロバートの飛ぶ鳥を落とす勢いはまだまだ健在です。

 「ブラック・ラジオ」には豪華なゲスト陣が参加していましたけれども、今回はほぼエクスペリメントの4人だけで制作されています。ゲストは、語りで登場するロバートのお子さんを入れてもわずかに3人だけです。

 とりわけボーカルはこれまでほとんどゲストに頼ってきていましたが、ここではメンバー全員がボーカルを分け合っています。特にサックス奏者のケイシー・ベンジャミンが大活躍しています。もちろんロバートのボーカルも存分に堪能できます。

 本作品では、「知り合いがあまりいない場所」ということでニューオーリンズのスタジオが制作場所に選ばれました。ロック・バンドであれば、知り合いも遠慮して出てこないでしょうが、ジャズだと、いろんな人が出入りしそうです。基本はセッションですから。

 スタジオに籠ることで、彼らが得たインスピレーションは、「しょうがねぇ、何か感じるものを作ってみるか」ということだったとロバートは語っています。熱くなりすぎず、冷たくなりすぎず、絶妙の間合いがあったことを感じます。

 ベースのデヴィッド・ホッジが語るところによると、この作品は「まったくギミックなし、形式を決めないで作ったものなんだ」ということです。さまざまな音楽の影響が反映していると自覚していますから、「ニューオーリンズ」の地霊も一役かったことでしょう。

 今作でのカバー曲は、ハービー・ハンコックの「テル・ミー・ア・ベッドタイム・ストーリー」とヒューマン・リーグの「ヒューマン」の2曲です。ジャズ・キーボードのハンコックや、テクノ・ポップのヒューマン・リーグでは、もはや驚きの要素はありません。

 しかし、日本盤ボートラに収録されたフォーク・デュオのシールズ&クロフツ「想いでのサマーブリーズ」には驚きました。とにかく音楽の幅が広い。ジャズ側から、こうしたサウンドにアプローチしてくるとはさすがです。

 正統派ジャズでありながら、R&Bやロック、ヒップホップ、ファンクなどを無理なく同居させながら独自のサウンドを展開する姿勢は健在です。人力ブレーク・ビーツと、華麗なキーボードとサックスが自在に組み合わさって、ポップな展開をみせています。

 もともとデビュー作のグラミー賞もR&B部門だったことが思い出されます。同じブルーノートだとロニー・ジョーダンなどを思い起こしました。ただ、どんなスタイルになろうともジャズの根がしっかり張っていて、空気をジャズにしているところが面白いです。

 ロバートのお子さんライリーが黒人少年を射殺した警官を告発する件があります。そうした社会問題も創作の動機として、今やブラック・ミュージシャンの最先端を走る責任を自覚しているようです。一回りも二回りも大きくなったエクスペリメント・サウンドは最強です。

Art Science / Robert Glasper Experiment (2016 Blue Note)