映画「リンダ・リンダ・リンダ」を見て、湯川潮音の歌声がとても気になったので、当時出ていた最新盤だったこのミニ・アルバムに手を伸ばしました。映画での彼女は♪ふーわりふわふわ♪と、パーランマウムとは対照的でした。

 その佇まいとは少し違うアルバムです。これは昭和歌謡界にその名を残す、冗談音楽の旗手、三木鶏郎の曲「雪のワルツ」のカバーを一丁目一番地に持ってきた作品です。カバーはこの一曲だけなんですが、この空気はアルバム全体を覆いつくしています。

 三木鶏郎の代表作は、冗談音楽では「田舎のバス」でしょうか。CMが始まると、♪明るいナショナル♪や「ルルの歌」などの名曲をものしますし、「鉄人28号」や「トムとジェリー」の主題歌なども彼の作曲です。

 テレビっ子だった私などは、生涯で耳にした回数が一番多いのは三木鶏郎の曲なのかもしれないと思うと、偉そうに洋楽のことを書いている場合ではないのかもしれません。私の音楽生活のかなりの部分を占めていそうです。

 湯川は、三木鶏郎のトリビュート・イベントに参加してから、「誰にでも口づさめる、時代を超えた普遍性、つらい時期にあえてカラッとして楽しい歌を生み出す精神、挑戦する気骨」にすっかり魅了され、カバー作品をCDに残したいと考えます。

 そして、三木が「新しい世代にぜひ編曲して唄ってほしい」と選んだ曲をリストに残しており、その筆頭にあった「雪のワルツ」に白羽の矢を立てました。この曲は楠トシエが唄った一番だけが放送音源として残されていたそうです。

 「泥沼化する戦争のさなか、まさに出征直前のクリスマスの雪の日に、友人、家族、恋愛に対するさまざまな思いを胸に一人雪道を歩きながら作られたであろう」と湯川は推測しています。力も入ろうというものです。公式サイトに記されたこの経緯には胸を打つものがあります。

 湯川潮音は東京少年少女合唱隊出身です。合唱団時代には海外公演も経験しているといいますから本格的です。その合唱団らしい美しい歌声が大いに話題を呼んだことから、本格的な音楽活動を始めるに至ります。

 メジャー・デビューはハナレグミの永積タカシ、くるりの岸田繁に提供を受けたシングルで2005年のことでした。ということは、この作品はそこからさほど間があいていないことになります。さすがは合唱団。結構ベテランっぽいです。

 「雪のワルツ」を冒頭に据えたことで、その後の楽曲5曲も昭和歌謡の匂いが強くします。一曲だけ菅野よう子が作曲していますが、後はすべて湯川潮音のオリジナルなのに。そしてまた、彼女の清く正しく美しい声がその昭和歌謡にマッチしています。

 演奏から何から昭和のコスプレのように思います。ジャケットに写る湯川も昭和アヴァンギャルドです。私には大そう懐かしさも感じさせつつ新鮮です。声優さんの世界のような気もしてきますし、こういう作品があると何だかほっとできます。

Yuki No Waltz / Shione Yukawa (2007 東芝EMI)