ナッズは短命に終わったバンドです。しかし、その作品が結構な高い評価を得ていることに加え、後に大活躍する二人のアーティストが在籍したことから、いつまでも人口に膾炙するバンドであり続けています。

 その一人は言うまでもなくトッド・ラングレン。アメリカン・ロック界の鬼才であるトッドがデビューを飾ったバンドであり、トッドの代表作にして最大のヒットとなる「ハロー・イッツ・ミー」がこのデビュー作に含まれています。

 もう一人はカーソン・ヴァン・オステン。ナッズではベースを担当していました。彼はバンドを辞めると音楽の道から離れ、ディズニーのコミック作者となりました。亡くなる直前の2015年8月にはディズニー・レジェンド賞を送られた第功労者です。

 さて、この作品はナッズのデビュー作です。ジャケットから分かるように、もろにビートルズを意識しています。発表は1968年、ブリティッシュ・インヴェイジョンに影響を受けたバンドであることがよく分かります。

 バンド名もヤードバーズの曲からとられています。さらにそれを辿ると「ナザレのイエス」に行き着くわけですけれども、そこまでは遡らない。ここは素直にブリティッシュ・ロックへの憧れでしょう。バンド結成自体が英国のバンドのような音を目指してのことです。

 そんな彼らをモンキーズを手掛けたレーベルが、第二のモンキーズとしてナッズを売り出そうとしたことから、とんとん拍子にデビュー作の発表と相成りました。モンキーズとの違いは自作自演であるところです。安上がりと踏んだのでしょうか。

 「ビートルズへのアメリカからの回答」です。レーベル側はアイドルとしてのビートルズを、バンド側はアーティストとしてのビートルズを念頭に置いた同床異夢だったのではないでしょうか。いろんな解釈ができるビートルズの偉大さのおかげでナッズはデビューできました。

 曲はほとんどトッド・ラングレンが書いています。ブリティッシュ・ロックの模倣などではなく、すでにしてポップ・マエストロの実力が発揮されています。ハード・ロックあり、ソフト・ロックあり、サイケあり、バラードあり、プログレありとさまざまな曲調ながら、きっちりポップです。

 リード・ボーカルはストゥーキーが担当しており、トッドは時おり声が聞こえるものの、基本はギターに徹しています。ただし、トッドを交えたボーカル・ハーモニーはさすがに美しい。ソロよりもこっちの方が好きという人もいるくらいです。

 アルバムからは冒頭の力作「オープン・マイ・アイズ」がシングル・カットされましたが、そちらではなく、そのB面に収録されたアルバムからの一曲「ハロー・イッツ・ミー」が小さいながらヒットします。数年後にトッドがソロで再録音して全米2位の大ヒットとなるあの曲です。

 このアルバムはほとんどヒットせず、アイドル人気を期待していたレーベルとは軋轢が生じることとなります。今振り返ればそんなことはどうでもよいエピソードです。その後大活躍するトッドの初期の姿が聴かれるだけで十分です。

Nazz / Nazz (1968 SGS)