これはどす黒いサウンドです。真っ黒と言ってよいでしょう。粘り気の強い黒さ。まずはサン・ラーを思い出します。サン・ラーの音楽に見られる人類のルーツに迫るかのような迫力がここにも感じられます。

 シャバカ・ハッチングスはロンドンで生まれた後、幼少の頃にカリブの国バルバドスに移り住んでいます。もともとカリブ系のルーツを持った人ですから、いわば里帰りなんでしょう。彼はカリブのルーツを強く意識したサウンドも追求しています。

 彼のサンズ・オブ・ケメットというユニットは、サックスを担当するシャバカ自身に加えて、ドラムとベース、それにチューバを加えた変則的なカルテットです。チューバがここでの特徴です。そこにカリブが体現しています。

 さらに彼の探求はカリブ音楽のルーツでもあるアフリカ音楽に向かい、自身を「西アフリカとカリブのディアスポラだ」と表現して、同地の音楽のミクスチャーを図っています。さらに、その向かう先にはスピリチュアルがあります。

 アフロフューチャリズムというのだそうですが、サン・ラーやアース・ウィンド&ファイヤー、ジョージ・クリントンなどが指向した世界だと言えばピンと来る人も多いでしょう。アフリカを突き抜けて宇宙に魂の故郷を求めていく姿勢です。

 シャバカはさらにロンドン・ジャズ・フェスティバルでは、ジョン・コルトレーン、アルバート・アイラ―、ファラオ・サンダースなどのスピリチュアル・フリー・ジャズについてディスカッションを試みたりもしています。アーティストの名前を並べるだけでも立ち上ってくるものがあります。

 そんなシャバカのこの作品は、南アフリカのミュージシャンと共演したプロジェクトによるアルバムです。南アフリカから参加している7人は、名前を初めて聞く人ばかりですけれども、アブドゥラー・イブラヒムなどの有名どころとの共演経験のある手練れのミュージシャンです。

 そして発表したレーベルは、イギリスのクラブ・ミュージックの大御所ジャイルス・ピーターソンのブラウンズウッドです。ジャイルスが関わっているというだけで、普通のジャズというよりも、新しいフューチャー・ジャズ的な匂いを感じてしまいます。

 コンピューターを駆使したサウンドではありませんけれども、確実にクラブ・ジャズ的な色彩があります。スピリチュアルを目指したプリミティブなサウンドが、突き抜けて未来志向になっているところが素敵です。サン・ラーの現代的展開とも言えます。

 実際、シャバカはアーケストラとも共演したことがあります。残念ながら1984年生まれの彼にとっては、1993年に亡くなってしまったサン・ラー御大との邂逅はならなかったでしょうが、サン・ラーの存在が確実に感じられるアーケストラとの共演は大きな一歩だったでしょう。

 力強く野太いサックスが、粘っこいリズム・セクション、これまたぶっといボーカルと対峙して、湿った熱気が充満するジャングルを思わせます。ここを分け入っていけば、確実に精霊に出会うことができると思います。それほどスピリチュアルが成功しています。

Wisdom Of Elders / Shabaka and the Ancestors (2016 Brownswood)