「イギリス音楽史上最凶の男!PiL結成メンバーにして、唯一無二のカリスマ!」ジャー・ウォブルの新作です。ウォブルはかなり多作な人ですけれども、少なくともここ日本ではいまだにPiLのベーシストだったことが必ず紹介されなければなりません。

 残念でなりません、と言いたいところですけれども、私の認識も同じようなものです。私にとっても、ウォブルは「衝撃ベース・プレイでポスト・パンク、オルタナティヴの流れに決定的な影響を与えたあの男」なんです。

 そのウォブルは、90年代に使っていたザ・インヴェイダーズ・オブ・ザ・ハートを復活させてこのアルバムを発表しました。バンド復活後、何度かライヴを重ねるうちに、こうしてレコーディングに発展していったとのことです。

 アルバム制作を進めたのは、元キリング・ジョークのユースで、彼はこのアルバムをウォブルとともにプロデュースしています。ユースは17歳の時からウォブルに多大な影響を受けたとのことで、尊敬すべきアーティストとの共演に気合が入っています。

 アルバムは「エヴリシング・イズ・ナッシング」と題されていますが、邦題ではナッシングがノー・シングとなっています。ちなみに曲名はノー・シングの方が使われています。ともかく、これは仏教、とりわけ禅の世界でいうところの「空」を表しているのだそうです。

 各楽曲にもいかにも哲学な題名が付いています。勝手に邦訳すると、「宇宙の青写真」、「宇宙の愛」、「キリスト降架(theは付いていませんが)」、「空の中の無限」、「曼荼羅」、「自由の原則」、「対称・非対称」、「我々と私」、「すべては空」、「球、螺旋とピラミッド」。

 どうでしょう。かなりスピリチュアルが降りてきています。ウォブルは、このアルバムを「一種『円が一回りして完結した/閉じた』的なフィーリングを生み出してくれる」と評しています。「リラックスし、なるがままに任せる、『禅』だ」とも語っています。

 サウンド自体は「ジャズ、ファンク、アフロ、ワールド・ミュージックを自由にクロスオーバーさせ」ています。ボーカルは一曲のみで、それ以外はブンブン・ベースを中心に組み立てられたクロスオーバーです。

 しかし、ベースが一人で独走するわけではなく、我を張らない。アンサンブルの妙を聴かせる作品です。そんなところに、東洋的仏教的な世界観に心を動かされているウォブルの心根が表れています。

 ゲストは英国サイケの伝説的なバンド、ホークウィンドのニック・ターナーと、ミスター・アフロビートのトニー・アレンです。この二人は自分たちの持ち味を存分に発揮しており、特にアレン参加の曲では、バンドもテナー・ギターで応える徹底ぶりです。ここでも我を張らない。

 面白いことに、ボートラのダブ・ミックスを除けば、クラブ・ジャズ的ではありません。ハウス以降の人たちとは違い、ニュー・ウェイブよりです。その意味では私などには安心して聴けます。適度に刺激的で、適度に落ち着いたサウンドがとても心地よいです。

Everything Is Nothing / Jah Wobble and the Invaders Of The Heart (2016 Jah Wobble)