「すべてのロック・ファンが一度は通らなければならない道、『ロックン・ロールの未来』と呼ばれた、ロック史上永遠に輝き続ける名盤」です。ブルースを語る際に、必ず出てくる言葉が「ロックン・ロールの未来」です。

 この言葉は、まだブルース・スプリングスティーンの知名度が低く、地道に地方巡業をしていた時に、彼のコンサートを見た、著名なロック評論家のジョン・ランダウが、その感動を伝えるために書いた文章からの一節です。

 それまで第二のディラン的な売り出し方をされたものの目立った成功に繋がらず、もはや消える運命かと思われたブルースが、このジョン・ランダウとの出会いで持ち直し、スーパースターの地位に登りつめることになりました。

 当時制作中だった3枚目となるこのアルバムは、共同プロデューサーにランダウを起用して再構成されることになります。そうして発表されたのが、この「明日なき暴走」です。タイトル曲のヒットに続いて、アルバムも大ヒットし、アメリカン・ロック史上に残る名盤となりました。

 もう一つ有名な言葉があります。「僕は『明日なき暴走』で、ボブ・ディランのような詩を書き、フィル・スペクターのようなサウンドを作り、デュアン・エディのようなギターを弾き、そして何よりもロイ・オービソンのように歌おうと努力したんだ」。オービソンに捧げた言葉です。

 ここでのサウンドをうまく言い表しています。「ロックン・ロールの未来」は先達への敬意の中から、王道を行くサウンドを展開しています。シンガーソングライターとしてではなく、Eストリート・バンドとのバンド・サウンドもまさにロックの王道です。

 中山康樹氏は、「『明日なき暴走』は、新しい世代の、新しい声によるロックンロールを求めていた潜在的な欲求にこたえる、極めて上質のロック・アルバムだった」と指摘し、タイムとニューズウィークの表紙を飾ったことで、「ロックの『表紙』が変わった」と述べています。

 1975年当時、まだ洋楽を聴き始めたばかりだった私にはこの雰囲気はよく分かりませんでした。一方で、さほど間をおかずに展開されるパンクの衝撃は分かります。これは私よりも若い世代にも追体験可能ではないでしょうか。

 ブルースは、コミュニケーションが濃密だった古き良きロックの世界の新しいスターでした。ロックの世界に革命を起こしたわけではなく、堂々とした生きのいい王道サウンドを極めて質の高い形で展開したというわけです。

 その描き出す歌詞の世界もロックンロールならではですし、このジャケットも構図から何から完ぺきなロックンロールの傑作です。それに釣られて、邦題も完璧でしょう。「明日なき暴走」。♪俺達みたいなチンピラは走るために生まれてきたんだ♪。

 ホーン陣の活躍、華麗なキーボード、腹の坐った歌声、描き出す世界観。すべてにおいて完璧なロックンロール作品です。ブルースはエスタブリッシュされたロックンロールの世界における高い山の一つです。その実力はこのアルバムで開花しました。

参照:「ジョン・レノンから始まるロック名盤」中山康樹

Born To Run / Bruce Springsteen (1975 Columbia)