ビロードの布をジャケットにあしらったジャケットから、キリング・ジョークのサウンドが変わったであろうことはある程度予想はつきました。大たい新人バンドにとっては三枚目が鬼門です。自身を世に問うデビュー作と勢いで作るセカンド。三枚目は難しい。

 人でもそうです。江戸幕府も三代目に家光が出たからこそ長続きしました。室町幕府は義満でしたし。逆に鎌倉幕府は源実朝、三代目で源氏は表舞台から姿を消してしまいました。三代目の法則と私が勝手に名付けているものです。

 キリング・ジョークの三枚目対策は外部プロデューサーの起用でした。これは理解できます。ファーストからセカンドに至る道行きでスタジオを使いこなすことによる効果を実感したはず。さらにプロの手を借りれば更なる飛躍があるかもしれないと思ったのでしょう。

 そして選ばれたのはコニー・プランクです。クラウト・ロックを支えたドイツの大物プロデューサーです。ニュー・ウェイブ勢とクラウト・ロックは相性がとてもよいですから、一見、意表を突いたようでいて、なるほどと首肯できる人選です。

 巷では「暴力的なエネルギーと破壊衝動に満ちたハイ・テンション/ハイ・ヴォルテージなヘヴィ/ラウド・ロックという初期ジョークの音楽性からの脱却を図っ」たと囁かれました。彼らに対する世間の期待するイメージからするとそういう解釈なのでしょう。

 そういう外見がどこまで彼らの狙ったものなのかは考えてみる必要がありそうです。彼らが企図したルネッサンスと破壊衝動とは結び付きにくいです。彼らの関心はサウンドに向かっており、パンクのように衝動をガムシャラに叩きつけているわけではありません。

 もともとエコーを利かせたボーカル録りが得意な彼らですから、奥行きのある音空間を作り出すコニー・プランクとのベクトルは合っているのではないでしょうか。結果として、このアルバムのサウンドはキリング・ジョークのサウンドを先鋭化しています。

 ただし、冒頭の曲など明らかにBPMが下がっています。性急なビートは一歩下がって、速さを落とした分、深みを増しています。重厚さを加え、ゴシック系の音に近い。耽美な雰囲気も漂い、さすがに落ち着いて録られただけのことはあります。

 やはり、この変化は賛否両論を生みました。キリング・ジョークをパンク的に捉えていた人には当然のことながら不評でした。しかし、チャート・アクションはこれまでで最高でした。整理されたので、一般的には質が高くなったと評価されたわけです。

 しかし、この変化はメンバーの総意というわけでもなかったようで、発表直前にジャズ・コールマンが失踪してしまいます。核戦争を恐れるあまり、イギリスにはいられないと、アイスランドに行ってしまったんです。

 当時、核戦争の脅威が高まっていたわけでもありませんが、心配する人はどこまでも心配するものです。ジャズの心配は杞憂に終わったわけで、人類のためにまことによかったと言わざるを得ません。バンドは分裂してしまいましたが。

Revelations / Killing Joke (1982 EG)