「家売るオンナ」は面白いドラマでした。突っ込みどころも多かったですが、北川景子の有無を言わせぬ演技にねじ伏せられました。そんな思いで毎週見ていると、タイトルバックで流れるタンゴが大いに気になってきました。そこで、さっそくサントラを購入してみました。

 テレビ・ドラマのサントラは、経費節約のためでしょう、タイアップされている主題歌は収録せず、またキャストの写真も掲載されないのが普通です。このCDもその例にもれず、GReeeeNが歌う主題歌は収録されていませんし、北川景子の写真もありません。

 しかし、その方がサントラとしての純度は高く、全33曲77分間、邪魔が入らずにサウンドに没頭できるというものです。この作品には、8種類の短いハレオまで収録されていて、それが素晴らしいアクセントになっています。

 音楽を手掛けたのは得田真裕、私の見ていたドラマだけでも「ミス・パイロット」、「花咲舞が黙ってない」、「ようこそ、わが家へ」、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」を生み出した1984年生まれのアーティストです。

 並べてみると、結構な頻度で彼の劇伴音楽に触れていることが分かって、少し驚きました。見事に作品に溶け込んでいるので、これまであまり気になりませんでした。それだけ劇伴音楽としての質が高いということでしょう。

 本作品では、「タンゴを使って」という依頼があったそうです。得田は、「僕が作らないといけないのは、どこにでも通用するタンゴではない」、「他のドラマに使っても違和感のないタンゴでは、このドラマの曲とは言えません」と、その心意気を語っています。

 そして、「北川景子さん演じる主人公が、少し人間離れした、言ってみれば”特異”な部分があるから」、人間の声ではなく、シンセサイザーのボーカル音を使ったり、変拍子を含めて「通常ではあまり使わない手法を使って表現しています」と創作の秘密を明かします。

 なるほど、キャラクターと台本ありきで、イメージを重視して作曲されていることが良く分かります。さらに「言葉の邪魔をしないことが、劇伴の一番重要な部分」であり、「メロディーが無い状態でも、曲として成立しなくてはいけない」ということです。

 そんなことをわきまえながら、サントラに耳を傾けると、おそらくは本作品が「特異」な性格をもっていることが引っかかったんだなという事が分かってきました。タンゴの他にも随所で活躍するフラメンコに、ブルース、テックスメックス系の音など、ちょっと変わっています。

 「不動産や家についての映像が流れると、『家売るオンナ』の曲が流れる。そういうふうになれば本当にうれしいですね」と語る得田ですが、私の頭の中ではすでにそうなっています。それほど魅力的な主題曲ですし、続く32曲もとても楽しい。

 さらに「家で作曲している時は電子音です。なのでこうやってレコーディングをして生の音を聴く、そうすると、これがご褒美だなと思うんです」とは、得田さんは何て素晴らしい人なんでしょう。まだまだ若い人だけに、これから活躍にも期待しています。

参照:WEB LIC INC.「ドラマ『THE LAST COP / ラストコップ』の音楽を作る人物が見るもの」

Ie Uru Onna / Masahiro Tokuda (2016 Vap)