海外で最も有名なインドの楽器はシタールでしょう。インド音楽と言えばシタールというイメージは極めて強固なものがあります。しかし、古典ではなく大衆音楽としてのインド音楽を分かりやすい形で特徴づけているのは断然タブラでしょう。

 小さな二つの太鼓から流れ出てくる多彩なリズムは実に深みがあって素晴らしいです。それに何と言ってもタブラはメロディーを奏でることができる太鼓です。その点で他の多くのパーカッションとは一線を画します。

 スファラはそのタブラにすっかり魅せられた女性です。彼女はマハラシュトラ州出身の両親をもち、アメリカはミネアポリスで育ったインド人です。4歳の時からピアノを習っていた彼女ですが、家で流されていたタブラの音に魅せられてしまいます。

 やがて彼女は伝説のマエストロ、アララーカに師事します。ジャケットに引用されている「心に愛がなければ、手にも声にも愛はない」とは彼の言葉です。彼が2000年に亡くなってしまうと、その息子さんで現代タブラの第一人者ザキール・フセインに師事することになります。

 彼は、時間があればどこでもレッスンに入ったそうで、サンフランシスコのカフェで突然レッスンが始まったなんていう話を楽しそうに彼女が語っています。徒弟制度のようなものですから、厳しい修行だったに違いありませんが。

 この作品は2005年に発表されたスファラの2枚目のアルバムです。「ザ・ナウ」、今でしょ、と訳したい誘惑にかられますが、実存する唯一の現実である今この瞬間に、音楽という手段によって、時間を超えて世界につながっていくという意味が込められています。

 スファラは米国で活躍しているため、さまざまなミュージシャンとの交流があり、このアルバムにもさまざまなアーティストが参加しています。インド関係ともいえるノラ・ジョーンズ、クレイジーなギタリスト、ヴァーノン・リード、ボリウッドのストリングス王サリム・マーチャント。

 さらに驚くのは俳優のアントニオ・バンデラスとメアリー・グリフィス夫妻です。ただし、これはグルーであるチョプラ博士のアルバムからの再録で、アロマ・キャンドルも販売しているスピリチュアル系なレーベルのつながりの模様です。

 曲ごとに参加している人々が違いますがが、不思議とばらばらな感じはしません。全編に流れるタブラの音が全体を締めています。彼女はリズムを先に作って、それから他の楽器を加えていくのだそうで、曲のイメージに合わせて参加する人を選んでいるのでしょう。

 タブラ奏者ではありますが、ヴァイオリンやギター、シタールに管楽器などさまざまな楽器、ボーカル、さらにはエレクトロニクスを駆使していて、力強いサウンドを奏でます。タブラがデジタル化されたような、比較的ジャストなリズムを叩きだすので、インドっぽさが薄いです。

 賛否両論あるようですが、アジア系クラブ・ミュージックであるエイジアン・マッシブともいえるそのサウンドは、スピリチュアル度も高く、彼女のオリジナルに相違ありません。ブルース・リーのようにタブラを叩く「タブラの女神」はカッコいいです。

The Now / Suphala (2005 Rasa)