ボ・ディドリーは「元祖ロックン・ローラー」の一人です。チャック・ベリーやリトル・リチャードなどと並ぶロックン・ロール偉人伝の中に出てくる人ですから、私など若輩者はまずはロックの歴史の教科書で学びました。何せデビューは1955年です。

 それにこの時代の人々は録音物はすでに著作権が切れているので、アルバムとなると粗製乱造気味にいろんな編集盤が出回っています。もともとオリジナル・アルバムは何なんだかよく分からない時代ですし。

 そんな付き合い方なので、このアルバムを聴いた時には、どうしてもボ・ディドリーと頭の中で結びつかず、同一人物なのかどうか、心のどこかで疑いをもってしまいました。だって、これはあまりにちゃんとしたアルバムなんです。

 1970年1月に録音され、5月に発売された正真正銘のボ・ディドリーによるアルバムです。何でもチェッカー・レコードからの通算17枚目になります。初アルバムが1958年だといいますから、ウルトラ・ハイ・ペースでのアルバム制作です。

 しかし、ことオリジナル・ソロ・アルバムに限ると、これは1966年10月の「オリジネイター」から3年以上のブランクの末に発表されたものです。60年代後半はボ・ディドリーの受難時代だったと言えるでしょう。

 実際、その頃はロックン・ロールのオリジネイターたちは過去の人扱いされていました。新しいロックが求められ、彼らが古臭く見えたということでしょう。40年以上経過して、過去は過去として整理できる現在とは時代が異なります。

 そんな時代を超えて、ボ・ディドリーが久々に発表した本作は、まずジャケットに目が奪われます。この色合いが素晴らしいです。パッと見ると抽象絵画のように見えます。しかし、仔細に眺めると上半身裸にレザーとメタルの鎧をまとったボ・ディドリーが見えてきます。

 映画でお馴染みのグラディエイターの制服ともいえるファンキーな出で立ちは、ファンクのウォリアーと化したボ・ディドリーのサウンドを端的に表しています。戦う相手は誰でしょう。常識的で円満な人格のディドリーにはそんな敵はいなさそうですが。

 ガレージ・ファンク、という言葉が思い浮かびました。1970年の録音にしても、かなり生っぽいあからさまな音になっています。その音で、バリバリのギター・サウンドをかき鳴らし、ファンキーなオルガンが大活躍します。リズムを引っ張るタンバリンがまた渋い。

 彼のトレードマークであるボー・ビートはユーチューブに多くの人が解説ビデオがアップしています。本作でも聴かれますが、それよりもスライ的なファンク・グルーヴや、ディープなブルースが目立ちます。それをひっくるめてガレージ仕様のファンクです。

 最後の曲はまさかのオペラ仕様だったりしますし、ボ・ディドリーの新境地とも呼べる作品なんだそうです。レア・グルーヴで再評価されたのも良く分かる、何とも愛おしい作品です。70年代ファンクの傑作ではないでしょうか。

The Black Gladiator / Bo Diddley (1970 Checker)