私の子どもの頃には、♪マンチェスターとリヴァプール♪という歌があって、イギリスではロンドンの次にこの二つの都市が頭抜けて有名でした。このデフ・スクールを語る際に、リヴァプールの町を欠かすわけにはいきません。

 マンチェの音楽シーンはパンク以降次々に重要なバンドを生んで、いや増しに栄えますけれども、そのライバルであるべきリヴァプールはビートルズという高い高い山を生んだものの、マンチェスターに比べるとかなり見劣りします。

 ですが、デフ・スクールはリヴァプールの音楽シーンにおいて、ビートルズと並ぶ重要バンドとして、多くのミュージシャンに影響を残しており、シーンの開拓者として、その後に登場するエコー&ザ・バニーメンやティアドロップ・エクスプローズなどから敬意を払われています。

 デフ・スクールは1974年にクライヴ・ランガーとエンリコ・キャデラックの二人を中心に結成されました。ランガーは後に、エルヴィス・コステロやマッドネスを手掛けて大成功を収める才人です。まさにこのバンドの中心人物です。

 彼らのデビューのきっかけは、英国の二大音楽紙の一つのメロディ・メイカーが主催するコンテストで優勝したことです。「スター誕生」です。レコード会社各社が争奪戦を繰り広げたそうですから、ますます「スター誕生」を思い起こします。

 初ライブでは何と14人ものメンバーがステージに上がったそうです。アート・スクール出身者たちらしく、演劇と音楽の共存を図ったから大人数になった模様です。そんなに大きな箱のわけはないですから、ステージは満員状態だったことでしょう。

 無事に大手ワーナー・ブラザーズと契約を交わした彼らは、メンバーを9人に絞って、このファースト・アルバムを制作します。バンド名は、練習場所が聾唖学校だったからという理由で、デフ・スクールとなっています。

 ジャケットには安っぽい書き割りの風景を背景に、抱き合うというかもみ合う怪しげなカップルが描かれています。まるで古い映画のワンシーンです。このジャケットがそのまんま彼らのサウンドを表現しています。

 9人組のうち、ボーカルは3人、そのうち一人は女性です。この構成を生かして、アルバムの全12曲がそこはかとなく男と女の物語になっています。申し分なく演劇的なんです。ただし、ドラマチック過ぎない。ひねくれたポップさ加減がちょうど良いです。

 1976年といえばパンク勃興期ですし、その後の歩みが彼らをパンク/ニュー・ウェイブ系列に置きますが、どちらかといえば、10ccに通じるモダン・ブリティッシュ・ポップの系統に入れた方が、少なくともこのアルバムは分かりやすいです。

 キーボードやアコーディオン、サックスなどを駆使したカラフルなサウンドが、流れるようなメロディーを皮肉たっぷりに唄うというポップな世界が展開されます。まさに英国の超正統派です。ひねくれているのが正統という英国精神の発露です。

2nd Honeymoon / Deaf School (1976 Warner Bros.)