マルタ・アルゲリッチとスティーヴン・コヴァセヴィッチのデュオによるピアノ作品集です。明らかにバルトークの曲が中心であるにも関わらず、邦題では「モーツァルト、ドビュッシー、バルトーク」の順番に並んでいるのが少し切ないです。

 切ないといえば、アーティスト名も「アルゲリッチ&コヴァセヴィッチ」とちゃんと記載をせずに、アルゲリッチとその仲間的な紹介のされ方をされがちなのも、切なさ度大です。ボートラはコヴァセヴィッチのソロなのに。二人はカップルだったのに。

 この作品はフィリップスに二人が残した名盤の誉れ高い一枚です。資料によれば、1978年のグラモフォン室内楽賞を受賞しています。これは、A面に置かれていたバルトークの「2つのピアノと打楽器のためのソナタ」に負うところ大でしょう。

 バルトークは民謡を多用した作品を発表する一方、前衛的な作品も追求しており、ユニークな楽器編成を用いることがありました。その一つがこの曲で、二人のピアニストと二人の打楽器奏者による四重奏です。

 1938年1月にスイスのバーゼルで初演され好評を博したのでしょう。楽譜出版社の勧めもあったということで、これにオーケストラを加えた協奏曲まで作曲しています。先日、このオーケストラ版を聴きに行ってきました。

 結論から申し上げると、オーケストラなしの方が私は好きです。どうしても音の表情がぼやけてしまうように思いました。ピアノと打楽器だけの方が、その先鋭度が増します。特に、このCDでの二人のデュオは素晴らしい。さすがはアルゲリッチです。

 打楽器は9種類にも及びます。ピアノも打楽器としての役割を与えられており、その本来の魅力を再発見することができます。打楽器群の多彩な表情も素晴らしいです。手数の多い派手な音はもとより、細やかなタッチもあって、存分に楽しめます。

 しかし、この構造的な作品とこのジャケットがかなりミスマッチです。そもそもこのジャケットは何なんでしょう。70年代にはクラシック・レコードのジャケットはひどいものが多かったですが、その中でもかなり上位に置きたいです。

 ただ、元カップルの二人が仲睦まじくピアノを弾いている姿は、次のモーツァルトとはそれほど違和感なく見ていられます。「アンダンテと五つの変奏曲」はバルトークとはうって変わって、実に平和なピアノ・デュオ作品です。

 ドビュッシーの「白と黒で」も彼らしいきらきらした曲です。A面とB面ではまるで雰囲気が違います。そもそも打楽器はB面では使われていません。レコード会社としては保険をかけたつもりなんでしょう。

 「即興と輝きに満ちたアルゲリッチを、コヴァセヴィッチが明るく上品に支えて」いるとメーカーの資料にさらりと書かれています。やはりアルゲリッチは人気があります。バルトークのこの曲に挑戦する意気込みが十分に伝わってくる好感のもてる一枚です。

Bartok/Debussy/Mozart / Martha Argerich, Stephen Bishop Kovacevich (1977 Philips)