高畑充希の音楽活動は「みつき」名義で始まりました。シングルでのデビューはコブクロの小渕健太郎がプロデュースした「大切なもの」です。彼女の歌声を聴いた小渕自身からプロデュースの申し出があったそうです。2007年6月の発表です。

 2枚目のシングルは川嶋あいが手掛けた「瞳ひらいて」、3作目は竹内まりやの「夏のモンタージュ」。そのいずれもが映画やテレビ番組の主題歌に起用されています。何と順風満帆な船出だったことでしょう。

 その勢いでもって発表されたファースト・アルバムがこの作品です。2008年9月ですから、彼女はまだ16歳でした。シングル曲の他にも、矢井田瞳、河口恭吾、佐藤竹善、馬場俊英、堂島孝平、松本俊明、川口大輔と錚々たる面々が楽曲を提供しています。

 松本はMISIAの「エヴリシング」で有名ですし、川口も中島美嘉や久保田利伸などに楽曲を提供しています。馬場はシンガー・ソング・ライターとして活躍している人です。作詞にはシング・ライク・トーキングの藤田千草も顔を出しています。

 この顔ぶれを見ますと、アイドルの世界の人々ではありませんし、テクノ系の人でもない。Jポップの世界でも、昔で言えばニュー・ミュージックの世界にいる人々であると言えます。楽曲が醸し出す空気もそちらの世界です。

 彼女の歌は昭和的と言われることもありますが、昭和歌謡ではなく、ニュー・ミュージックの世界です。16歳の女の子なのに、アイドルではなく、女性シンガーです。松浦亜弥がアイドル後に目指した世界からいきなりデビューしたようなものでしょうか。

 私はこの作品から3曲が収録された彼女のセカンド・アルバム「プレイ・リスト」を愛聴しています。素直で伸びやかな声が本当に素晴らしい。どんな曲を歌っても魅力的な歌に仕上げる実力の持ち主だと思います。

 この作品はCDではちょっと入手しにくかったので、今回出物をみつけたので迷わずに買いました。案に違わず3曲以外の楽曲もとてもいいです。16歳にしか出せない若々しい声で、16歳とは思えない歌唱力を披露するみつきの歌は本当に素晴らしい。

 矢井田瞳との相性はどうかなと思ったのですが、意外にぴったりです。そこら辺りはやはり16歳の女の子です。老成しているようでいて、やっぱり若いんです。歌い上げるバラードばかりではなくて、こうした曲もしっかりものにしています。

 しかし、彼女のセカンド・アルバムは本作と3曲もかぶる中途半端なものですし、それも6年近くブランクがあります。豪華作曲陣を起用した力の入れようはどうしてしまったんでしょう。ニュー・ミュージック的な世界自体に需要があまりないのかもしれません。

 高畑充希は女優として大きな花を咲かせてきましたから、それをてこにぜひ本格的に歌手活動にギアを入れてほしいです。せめて柴咲コウくらいのペースで曲を発表してほしいと切に思います。梅酒だけではもったいない。

Color / Mitsuki (2008 ワーナー)