中南米諸国はどこも音楽に恵まれていますが、その中でもキューバとブラジルは別格でしょう。音楽王国と言ってよいです。ただ、アルゼンチンが異を唱え、コロンビアも黙っていない。ジャマイカもマルチニークも、と話がどんどんややこしくなりますが。

 このアルバムは「ソンの神様」と呼ばれるパンチョ・アマートの作品です。パンチョはキューバ独特の楽器トレスの名手として知られています。ウノ、ドス、トレスのトレスです。その名の通り、トレスは3弦の小振りな複弦ギターです。

 トレスはキューバの音楽ソンを演奏するときに欠かせない楽器で、キューバ独特の発達を遂げています。パンチョはこのトレスを通じてソンを追求してやみません。彼が結成したバンドが「パンチョ・アマート・イ・ス・カビルド・デル・ソン」、ソンの伝道師たちです。

 パンチョの使命感がよく表れた名前です。彼は1950年生まれで、このアルバムは2008年の録音ですから、パンチョ58歳の作品になります。ソンを演奏するミュージシャンとしてはちょうどよい年齢なのではないでしょうか。

 ソンはそもそも「音」と訳される一般名詞です。しかし、キューバでは確固たる音楽様式として確立しています。若い人向けのクラブではサルサが流行っているようですが、それを除くと、キューバの大衆音楽は大体ソンと呼ばれているように感じました。

 しかもキューバに行くと町中に音楽があふれており、老若男女を問わず、このソンが生活とともにあると言えます。ですから、パンチョ58歳というのは全く違和感がない。また、それが若い人にも自然に受け入れられているところが素晴らしい。

 伝道師たちは6人編成のセプテートと呼ばれるスタイルをとっています。パンチョのトレスに、ギター、コントラバス、パーカッション、ボーカルにトランペットで6人です。このトランペットが入っていることが画期的なのだそうです。大活躍しています。

 柔らかで乾いたパーカッションとコントラバスの作り出すリズムと、これまた柔らかなギターが流れていき、そこに哀愁を帯びたトランペットが絡みつく。そして、しなやかな歌唱がキューバの空気を連れてきます。

 曲はパンチョの作曲によるものの他に、スタンダードとなっている曲が数多く収録されており、さすがはソンの伝道師たちです。入門編として、「ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」に収録されるにふさわしい内容になっています。

 オールド・ハバナではカフェやバーはもちろんのこと、街角でもこうした音楽が演奏されていました。ブエナ・ビスタ・ソーシャル・クラブで一躍有名になったキューバの音楽ですが、そんなことには全く頓着なく、こうして昔から脈々と生きてきたということでしょう。

 ライナーノーツによれば、「ソンがアメリカに渡った時、ルンバとしてレコードにクレジットされ、以後世界的にはルンバと呼ばれるようになったとも言われている」そうですし、チャチャチャやボレロ、マンボなどの基だそうですから、キューバ音楽はみんなソン!

Son, The Rhythm Of Cuba / Pancho Amat (2008 キング)