話題の映画「シン・ゴジラ」にも前田敦子は出演していました。ゴジラのせいでトンネルの中に閉じ込められた女性があっちゃん。カメオ出演としては見事な出方で、スポットできた時には嬉しかったです。

 前田敦子は女優としてはなかなかの実力の持ち主だと思います。演技力を推し量ることは困難な役でしたが、名作TVドラマ「Q10」も素敵でしたし、何よりも「もらとりあむタマ子」のだめ女と「イニシエーション・ラヴ」での恐ろしい二股女は素晴らしかった。肝が冷えました。

 この2作でのあっちゃんは本当に凄かった。それに比べると、「体当たり」演技が評判だった「毒島ゆり子のせきらら日記」はオッサン目線のドラマだったところが残念です。確かに面白かったのですが、想定の範囲から逸脱していない。

 その毒島の主題歌「セルフィッシュ」をタイトルとした、前田敦子のファースト・アルバムです。良心的というのか、同曲以外は、これまであっちゃんが発表してきた4枚のシングルからの曲で構成されています。

 しかし、このタイプAの他にB、C、Dがあり、それぞれに新曲が1曲ずつ収録され、さらにABCに付属のDVDもそれぞれ種類が違います。ファンに完集の歓びを与えるための心憎い演出として、良心的の極みとしておきましょう。

 トータル・プロデューサーは秋元康、全15曲の作詞はすべて彼の手によります。作曲と編曲は何人もの名前が並んでおり、ほとんどがAKBグループとのかかわりが深い人のようです。お抱えチームと言ってよいのかもしれません。

 そのため、このアルバムはとてもAKB的です。最初のシングル「フラワー」は在籍時だったので当然でしょうが、卒業後であってもその表情は変わりません。最新曲「セルフィッシュ」も例外ではありませんでした。

 秋元康は、おニャン子クラブ以降の音楽を聴いていないのではないかと思われるほど、時間が止まっています。全曲、私の世代には懐かしいアイドル歌謡の世界が繰り広げられます。録音技術の違いは顕著ですが、サウンドは本質的には当時と変わらない。

 ももクロやエビ中のハチャメチャさもないし、パフュームやきゃりーぱみゅぱみゅのテクノもありません。ハロプロの冒険もない。ここにあるのは歌謡曲の全盛期から続く正統派ポップスです。歌謡曲の定番ストリングスまで再現されていて、とても懐かしくなりました。

 そのため、各楽曲の制作時期は足掛け6年にも及びますが、見事なまでの統一感があります。楽曲製造工場のラインはあまり変わっていないようです。ただし、あっちゃんの声が少し違います。女優としての成熟度が表れているのかもしれません。

 演技方面では体当たりも含めて、アイドルの枠を軽々と越えているのに、音楽は大人しい。「セルフィッシュ」での越え方はおっさんっぽいので、次は、私には想像もできない弾けっぷりをみせてほしいものです。坂本慎太郎ややくしまるえつこと共演したらどうでしょう。

Selfish / Atsuko Maeda (2016 キング)