カラクタ共和国でのライブ録音と銘打った作品は初めてです。ラゴスのスルレレにフェラ・クティが作り上げたコミューンにカラクタ共和国と名付けられたのは1974年のことでした。カラクタは、フェラが初めてぶち込まれた監獄の名前です。
 
 そして「共和国」は「イギリス人が作ったナイジェリア連邦共和国に、俺は同意できないってことを示すため」に付け加えられました。どちらも強烈なアジテーションに満ちています。フェラのダイナマイト人生を象徴しています。
 
 しかし、この作品が発表されたのは1977年、2月にはカラクタ共和国が当局の手によって炎上してしまいます。それを考えあわせると、このライブが行われたのは前年のことなんでしょう。貴重な録音です。
 
 この作品はA面とB面を通して一曲だけです。もちろんアルバム・タイトルと同じ曲「J.J.D.」です。これは「ジョニー・ジャスト・ドロップ」の略で、外国かぶれのナイジェリア人たちを糾弾する歌です。
 
 ジャケット絵が雄弁にそのことを物語っています。カリオクゥ・レミによるイラストには、ナイジェリア人の真っただ中に飛行機からパラシュートで落下してきた西洋かぶれの男が描かれています。これがジョニーでしょう。
 
 「ビーン・トゥ」というのだそうです。ヨーロッパやアメリカに行ってた人たちのことです。彼らの多くは西洋文明の良いところを吸収だけすれば良いのに、どうしても自分たちのアフリカ文化を卑下して帰ってくることになりがちです。
 
 フェラは、ドレッドやアフロなどのヘア・スタイルも西洋からの輸入だと考えていて、これも嫌っています。これは劣等意識が裏返って、国粋主義に転じた形と見れないこともありません。どちらも、非西洋人としての日本人にもわだかまっている感情です。
 
 通例ではLPには二曲収録のところをここは1曲のみの収録ですけれども、時間にして約23分と決して長い訳ではありません。いつもと同じ15分見当の曲がライブ演奏で、これくらいに伸びたと考えるのが自然でしょう。
 
 ライブらしく、フェラのウェルカムMCで始まり、最後は♪ちょっと休憩♪で終わります。しかも、曲の始めには鳴り始めたサックスを一旦中断して仕切り直しをします。本格的に曲が始まるまでには悠に3分近くかかっています。ライブらしくて素敵です。
 
 フェラのスタジオ作品も恐らくはスタジオでのライブでしょうから、ライブだからと言ってさほど違いはないように思っていましたが、やはり客とのコール&レスポンスなども入るこちらはノリが違います。オーガニックで伸びやかな印象です。
 
 歌詞に負けず劣らずサウンドも攻撃的で観客とのケミストリーも万全で、攻撃的ではありながらとても楽しい雰囲気です。サウンドの冒険という意味ではさほど過激ではありませんが、いつものフェラとも少し違う、ライブならではの味が良く出た良作です。
 
Johnny Just Drop!! Live At Kalakuta Republic / Fela Anikulapo Kuti & Afrika 70 (1977 Decca)