これぞ私の考えるブリティッシュ・ニュー・ウェイブ・サウンドです。モダン・イングリッシュ以上にそれらしいバンドは見当たらないくらいです。ジャケットの美的センスから、サウンドの纏っている空気感まで、見事に当時のシーンを表しています。
 
 モダン・イングリッシュの母体となったリーパーズは、英国エセックスのコルチェスターという町で最初のパンク・バンドと言われたバンドでした。彼らは大した成功を収めることができず、パンクの単純なサウンドに飽きてしまいます。
 
 この頃安く手に入るようになったシンセを使ったサウンドに転化することとなり、メンバーを加えてモダン・イングリッシュに生まれ変わりました。バンド名はジョージ・オーウェルの著書からとっており、自信たっぷりの思春期の5人にぴったりな名前に思えたと述懐しています。
 
 ここからの歩みも典型的です。彼らは地元の企業家の支援を受けて自主レーベルを設立します。そこから発表した最初のシングルが、英国の大衆音楽に多大な功績を残したジョン・ピールの耳に留まり、彼の番組で何度か紹介されました。
 
 その縁でロンドンでライブを行うと、見に来ていた4ADの創設者アイヴォ・ワッツ・ラッセルとピーター・ケントに見初められ、目出度く4ADと契約を交わすことになりました。ミニ・シンデレラ・ストーリーです。
 
 何枚かシングルを出した後に発表されたデビュー・アルバムがこの作品です。「メッシュ&レース」と題された曲はこのアルバムの次に出されたシングルに収録されていて、本作品には収録されていません。しかし、本作もメッシュとレースに所縁はあります。
 
 ジャケットはぼやけた写真ですが、どうやらレース越しに撮影されている模様です。そして、フォト・セッションでは2人の女性がそれぞれレースとメッシュを纏っています。ジャケットにはほとんど写っていませんが、そのスピリットが表れているんでしょう。
 
 この頃、彼らはデペシュ・モードやジャパンとステージを共にしており、自分たちをシンプル・マインズやサイケデリック・ファーズ、ワイヤーなどとタメをはるバンドと認識していたそうですから当時のシーンが偲ばれます。
 
 本作品はジョイ・ディヴィジョンの影響が強いと言われることもありますが、もう少し線の細い繊細な作風です。そこがますますニュー・ウェイブ的です。まだまだアマチュア的な稚拙さも感じられて、手作り感がします。
 
 実際、彼らはエコー&ザ・バニーメンの「ヘヴン・アップ・ヒアー」を聴いて、プロデューサーの必要性を実感したそうで、次作は外部からプロデューサーを迎えてさらなる飛躍を遂げていきます。ですから、この作品の手作り感は貴重なんです。
 
 ひんやりした空気感のサウンドは、当時の若者たちの抱えていた殺伐としたやるせなさのようなものを表しています。パンクの宴の後、ポスト・パンクのエネルギーの充満した空虚さを体現したアルバムだと言えます。
 
Mesh and Lace / Modern English (1981 4AD)