ストーンズはアルバムの枚数単位でレコード会社と契約していたせいで、結構ライヴ盤が発売されます。契約をこなすため、などと陰口を叩かれることもありますが、デビューからすでに30年を経て、コンスタントにライヴをこなすだけでも凄いことです。
 
 しかも、今回のライヴ盤は一味違います。MTVの企画アンプラグドが一世を風靡したのは少し前のことでした。その当時は当然ストーンズにもお声がかかりましたが、なんらかの理由で流れてしまいます。本作はそのブームへの回答の性格が強い模様です。
 
 前作「ヴードゥー・ラウンジ」発表後のワールド・ツアーの合間を縫って、東京とリスボンのスタジオにてアコースティック主体のレコーディングが行われました。また、アムステルダムにてスペシャル・ギグも行われました。
 
 本作品はこれらのマテリアルを集めて整えられたアルバムです。完全にアンプラグドというわけではありませんが、アコースティックを主体とした、ストーンズのありのままの演奏が収録された意表をついた作品です。
 
 キース・リチャーズは、アコースティック・ギターを弾かせてみれば本物かどうか分かるというような発言をしていました。もともとアコギへの思い入れが強いようです。この発言を聴いた時には意外な気もしたのですが、その言葉を胸に彼の演奏を聴くと納得できます。
 
 本作ではそんなキースの本領発揮です。ストーンズのスタジオ作品は、後期になればなるほど作りこまれたサウンドになっており、曲ごとにさまざまな工夫がなされていました。それが、この作品では比較的素朴な生のままのサウンドが展開されます。
 
 「悲しみのアンジー」を除けば特大ヒット曲は収録されておらず、「クモとハエ」や「アイム・フリー」などのB面曲など、いぶし銀のような渋い選曲です。「むなしき愛」や「ノット・フェイド・アウェイ」などの名カバーも嬉しいです。
 
 何よりもファンを喜ばせたのはボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」です。名前つながりが面白いです。オリジナルに比較的忠実なアレンジですが、両者の音楽には共通点があることが良く分かります。
 
 こんなストーンズが聴きたかった。素直にそう思います。ミック・ジャガーもキース・リチャーズもこのアルバムについてあまり発言しておらず、そのことを中山康樹氏は、二人は「あまりにもストーンズを過小評価していると思わざるをえない」と表現しています。
 
 この言葉には膝を打ちました。ストーンズの日常を切り取っただけのアルバム、そんな認識なのでしょう。それがこんなにカッコいい。ゲスト陣を交えた演奏の中身の濃いこと濃いこと。ピント外れかもしれませんが、グレイトフル・デッドを思い出してしまいました。
 
 ストーンズはワールド・ツアーの最中に小会場でライヴを行うこともありました。こんな演奏を聴けるのなら、ぜひ見に行きたいです。ドームもいいのですが、やはり昔からの付き合いが長い私たちには小さな会場でのリラックスした演奏が何よりです。背筋が震えます。
 
参照:「ローリング・ストーンズを聴け!」中山康樹
 
Stripped / The Rolling Stones (1995 Rolling Stones)