キュアーは、最初はイージー・キュアーと名乗っていました。イージー・キュアーは、とてもパンク的な名前です。ところが、イージーを取り去ると、いかにも哲学的な名前になります。ゴシックと呼ばれるサウンドに展開していくにはこの変化は必須でした。
 
 前作からちょうど1年後に発表されたキュアーの3枚目のアルバムです。LP時代にはこの二作がカップリングされていたこともありました。そのため、私にはこの2つで一つのような感じがしてしまいます。
 
 ところが、両者はサウンドの傾向はよく似ているのですけれども、明らかな違いがあります。それは6弦ベースです。キュアーはしばしばジョイ・ディヴィジョンと比較されます。それはこのベースの音にあるのではないでしょうか。
 
 このベースが導入されたことで、キュアーのサウンドは一気にゴシックの匂いが強まりました。ドラムとベースのシンプルな演奏に乗せて、ロバート・スミスが、デッドパンと評される生真面目な歌唱を聴かせます。ギターとキーボードもとてもシンプルです。
 
 前作は4人組でしたが、この作品では3人になっています。キーボードのマシュー・ハートリーが抜け、代わりにスミスがキーボードも時折演奏しています。トリオ編成で、サウンドはよりシンプルになったわけです。
 
 ジャケットの写真は、ヨークシャーにあるボルトン修道院だそうです。霧の時に撮った写真のようですが、これがちゃんとした建物の写真であることが驚きです。12世紀から続いているそうですから、まさにゴシック建築の時代ではあります。
 
 この朦朧とした写真のイメージがそのまんまサウンドに展開しています。ロバート・スミスの声は一人で歌っても多重録音のような質感があります。それが重ねられたりして、ますます朦朧とした空気が強まります。
 
 まるで「スリーピー・ホロウ」の世界です。薄暮、霧、歪んだ枝の木々、深い森、そんなイングランドの中世的な世界観を感じさせるのですが、後の全盛期のゴスに比べると、まだシンプルで、シンプルゆえの潔さがあります。
 
 当時はニュー・ウェイブの時代でしたから、こういう作風が結構受けました。英国では14位という見事なヒットになっています。青春をこじらせたかのようなサウンドは、イギリス人受けする系譜に連なります。後のザ・スミスにも通じる流れです。
 
 まだまだ素人っぽいところもこの時期のキュアーの大きな魅力です。背伸びしている感じがまたまた共感を誘います。あっちの世界ではなく、ちゃんとこっちの世界に居てくれる。対峙しているのではなくあらぬ方向を向いている。そんな共感です。
 
 私はやはりタイトル曲が一番好きです。初めて聴いた時からもう何十年も経っていますが、今でも時折、ふとした時に口ずさんでしまいます。♪ナッシング・レフト・バット・フェイス♪。タイトルにするだけあって、スミスは真剣に信仰と向き合っています。
 
Faith / The Cure (1981 Fiction)