ハンブル・パイの作品が紙ジャケにて一挙に再発された際、その中から1枚だけ選ぶことにしました。彼らの代表作であり、最もヒットしたのは「スモーキン」なわけですが、そちらを選ばずに「サンダーボックス」を選んでしまいました。
 
 そうです。このジャケットです。レトロな鍵穴から見えているのはトイレに座る女性の姿です。ヒプノシスがやってくれました。当時のジャケット界ではスコーピオンズの「バージン・キラー」と双璧をなす、エロエロなジャケットです。
 
 まだ中学生だった私にはどちらの作品も購入する勇気がありませんでしたから、リベンジも兼ねてみました。もちろん、中身はひどいわけではありません。意外とこの作品のサウンドを愛している人も多いんです。と、ちょっと言い訳ですか。
 
 ハンブル・パイは元祖スーパー・グループとも言われるバンドでしたが、スタジオ7作目となるこの作品の頃には美少年で人気だったピーター・フランプトンが脱退していましたし、初期の頃はあまり売れていませんでしたから、もはやスーパーとは言われていませんでした。
 
 むしろ、この作品に限らず、ジャケットが有名でした。この作品の裏ジャケもアルフォンソ・ミューシャを模した絵になってます。この他の作品でも、ビアズリーを使ったり、小包だったり、シンプルなロゴだったり。面白い人達です。
 
 サウンドは、ピーターが脱退した後は、元スモール・フェイセズのスティーヴ・マリオットのR&Bセンスが全開になっています。もちろんこの作品も例外ではありません。しかも本作は「R&Bナンバーのカヴァーをメインに、余裕に満ちた歌と演奏を披露」しています。
 
 マリオットのボーカルはAC/DCのブライアン・ジョンソンとレッド・ツェッペリンのロバート・プラントを足して二で割ったような声をイメージしてもらえばよいかと思います。髭面からは想像しがたい声が出てきます。
 
 演奏は、泥臭くて粘っこい。しかし、本場のファンクとは少し毛色の違うファンキーで、汗くさくないサウンドです。やはりブリティッシュなロックン・ロールなので、まっすぐなところが消えません。そこがとても心地よいです。典型的な70年代ブリティッシュ・ロックです。
 
 一曲だけ、ベースのグレッグ・リドリーが歌う曲があります。これが一服の清涼剤ではないですが、いいアクセントになっています。ザ・バンド的な演奏が素晴らしく、マリオットとはまるで違うボーカルがカッコいいです。もっと歌ってもよかったのに。
 
 前々作の「スモーキン」が全米トップ10ヒットとなった余勢をかって、前作は2枚組超大作でしたが、さほど売れず、ヒット性の高い作品を要望されて出来たのがこのアルバムです。シンプルなロックを指向するメンバーの意見も強かったようです。
 
 そのかいもあって、タイトにまとまったアルバムになりましたけれども、残念ながら、前作以上に売れませんでした。ご機嫌なアルバムなのに残念です。渾身のジャケットに二の足を踏む若者が多かったのかもしれません。
 
Thunderbox / Humble Pie (1974 A&M)