映画、見に行きました。今となっては考えられないことですが、ストーンズの来日は、一度中止されて以降、将来にわたって不可能だと言われていました。ストーンズのステージを見たいというファンの願いは、こうしてコンサート映画となって少し癒されたのでした。

 ローリング・ストーンズは1981年夏から米国ツアーを行いました。その模様は、ハル・アシュビー監督によって「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー」と題する映画にまとめられ、日本にも届けられました。公開当時の邦題は「ザ・ローリング・ストーンズ」です。

 イントロにはデューク・エリントンの「A列車で行こう」が流されていて、そこに「アンダー・マイ・サム」のリフが流れ、メンバーが飛び出してくるオープニングから鳥肌ものでした。1時間半にわたる映画はそれはそれはカッコよかったです。

 このアルバムはその同じツアーの模様を収録したライブ盤です。二枚組でもよかったはずですが、そうはなっておらず、映画のサントラという色合いは希薄です。映画では演奏されていた「ブラウン・シュガー」や「ダイスをころがせ」などの大ヒット曲は収録されていません。

 「ラヴ・ユー・ライヴ」との重複を避けた模様で、「スタート・ミー・アップ」と「サティスファクション」を除けば、彼らの大ヒット曲は選ばれていませんし、直近の3作品からはわずかに4曲しか選ばれていません。それも一曲はカバー曲です。

 とても潔い構成です。ここからは、ミラクルズのカバー「ゴーイング・トゥー・ア・ゴーゴー」と「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」がシングル・カットされ、前者がヒットしました。そして「アンダー・マイ・サム」がやたらとカッコよく聴こえます。構成の妙でしょう。

 その構成ですが、「アンダー・マイ・サム」に始まり、「サティスファクション」で終わる。これは1966年にアメリカで発売されたライヴ・アルバムと同じ構成です。これをイントロのデューク・エリントン、アウトロのジミヘン「星条旗」が挟み込みます。

 中山康樹氏はこれを「歴史は一巡した」ととらえ、ストーンズはエリントンやジミヘンとともに「歴史の一部」になったと解釈します。「自ら歴史のなかに封印し、そうすることによって新たな一歩を踏み出したことを伝えようとした」。

 確かにライブ・アルバムとしては少し不思議な選曲です。見事な映像作品も含めて考えると中山さんの言うことが当たっているような気がします。何事にも意味があるストーンズです。ライブ盤で区切りをつけて新たな出発も大いにあり得ます。

 チャーリー・ワッツとビル・ワイマンが元気です。映像では、乱入者をギターで叩きだすシーンなど、キース・リチャーズにばかり目を奪われていましたが、こうしてCDを聴いていると、このリズム隊は本当に素晴らしい。若返っているようにも思えます。

 スタジアムを縦横無尽に駆け抜けるスポーティーなストーンズです。60年代のダークな雰囲気は微塵もありません。良い汗のかけるバンドとしてのストーンズもなかなか素晴らしい。これはこれでベストなライブ・アルバムです。

参照:「ローリング・ストーンズを聴け!」中山康樹

Still Life (American Concert 1981) / The Rolling Stones (1982 Rolling Stones)