クリスタル・ケイは1986年生まれなので、このアルバムを発表した時はまだ16歳、もうすぐ17歳なので「オールモスト・セヴンティーン」です。当時は掛け値なく若かったわけですが、彼女もまだ昭和生まれだと思うと何だか不思議な気がします。

 16歳にしてこれがサード・アルバムというところが凄いです。ミュージシャンのご両親の下で育った彼女は、4歳の時にはすでに仕事を始めていました。シングルデビューは1999年、13歳の頃です。早熟の天才です。

 この作品は、m-floの☆Takuのプロデュースによる先行シングル「ハード・トゥ・セイ」がロングセラーとなったこともあって、オリコン2位を記録する大ヒット作品になりました。その意味では彼女の出世作に間違いありません。

 当時の彼女の勢いは凄かった。彼女はその後もコンスタントに活動を続けていますが、当時はとにかく出だしの勢いがありました。変な癖のついていない素直な歌い方で、それこそクリスタルのように透き通る声でしなやかに歌う彼女に魅せられた人が多かったです。

 2002年のヒット曲を眺めていると、宇多田ヒカルや浜崎あゆみ、安室奈美恵やMISIAなどがぶいぶい言わせていた時期であることが分かります。その中で、本格的R&Bの色彩が強いクリスタル・ケイの立ち位置はどこにあったのでしょうか。

 彼女たちに続く若手女性アーティストとしてJ-POP界で注目されたのに間違いはありません。しかし、R&B唄いはジャズ系の世界にもたくさんいます。クリスタル・ケイの本格派度合いと色のついてなさは、むしろ後者の世界のような感じがしたものです。

 そう感じた理由は、私と彼女が親子ほども歳が離れているからなのか、自然に洋楽を聴いているイメージで聴いていたからなのか、よく分かりませんが、彼女のその後の活躍ぶりをみると案外間違いではなさそうです。とにかく、無理せずに大人の耳にも届く歌手です。

 このアルバムは、☆Takuの他にも佐藤竹善やDJワタライ、AKIRAにT.Kuraなどのアーティストが曲を提供してプロデュースにあたっています。中でも安室奈美恵やAI、EXILEへの楽曲提供で名高いT.Kuraは5曲を担当しています。

 ラップも絡めたヒップホップな曲から、佐藤竹善らしいバンド演奏の曲やバラード調の曲まで、曲調はさまざまですけれども、16歳とは思えない見事な歌唱が全てを統合しています。アルバムとしてのまとまりが素晴らしい。

 R&B方面では、起伏の激しいメロディーを歌うよりも、平坦なメロディーを聴かせる方が難しいですが、彼女の場合はそこが素晴らしい。「ユアー・マイ・フェイト」後半のぐずぐずしたメロディーなど彼女でなければ決まらないでしょう。

 無邪気なまでに透明な歌声がありとあらゆる作品を歌いこなしてしまう懐の深さが顔をだしています。プロデューサー冥利に尽きる逸材でしょう。器用貧乏にならないように、どっかりと腰を落ち着けて我が道を行ってほしいものです。

Almost Seventeen / Crystal Kay (2002 EPIC)